PHASE-1503【門にはいつ通りの88】

「ディザスターは召喚しない。これはトールと同じ意見」


「そうか。まあ、我も同族とは言え好きではないからな」

 継ぐリンに、俺に問答を仕掛けてきたルインが返す。


「だったら最初から提案するなよな。それに、好き嫌いがあるとかアンデッドが言うじゃねえか」

 最初の部分に関しては、俺の気持ちを代弁したかのようなラズヴァート。

 刺々しい言い様からは、アンデッドの分際でえり好みするなという侮蔑も感じ取れる。


「さて、この生意気なフェイレンに話の腰を折られたことでもあるし、次へと移動するのもいいだろう。問答で休息を妨げてしまったのは申し訳ないが」


「問題ないですよ」

 ルインと見合う。

 見合ったところで髑髏の表情を読み取ることは難しい。

 リンに蹴られた時のように、緑光が点灯するなりしてくれれば感情を読み取ることも少しは出来るんだろうけどな。

 眼窩の緑光で判断するなら――今は平穏ってところかな。

 これ以上の口論に発展することはもうないと考えていいだろう。


「行こうかラズヴァート。出入り口の案内をしてくれ」


「へいへい」

 あら素直。

 結局は自分だけが救出されなかったから拗ねている? ってわけじゃないだろうけど。

 無駄に抵抗しても意味はないもんな。俺でも同じ立場なら素直になるか。

 とくにアンデッドの軍勢に囲まれているとなれば……。


 ――。


「うむ。壁上に立っても反応無し!」


「むしろ不気味だよね」


「だな」

 高さがそれほどない城壁。

 ピリア込みの跳躍なら壁上に着地することも簡単だった。

 そこからぐるりと見渡すも相手サイドに反応はなく、俺の言葉に返してくれたシャルナがレビテーションで更に高い位置から、エルフの視力にて要塞全体を確認してくれるが、人っ子一人見当たらないと伝えてくれる。


「いやはや便利ですね」

 スケルトンピルグリム達によるプロテクションの階段。

 それを利用して壁上へと上がってくるコクリコは大物感を出すかのように、ルインの隊列の先頭に立ってから壁上にてガイナ立ち。

 存在感と大物感の出し方が上手いね。

 今度、教わろうかな。


「五十を超える戦力が壁上へと立つというのに、なんの反応も見せないのはシャルナが言うように不気味だな」

 コクリコ達の後に続いて壁上に立つベル。

 相手側の負の感情を感知することが出来ないから、この辺りに潜んでいることもないようだね。と、ミルモンが続く。

 これには同じ感知タイプであるベルも同様。

 でもって、ミルモンのその能力を破顔となって褒めちぎっていた。


「まったくもって緊張感のない連中だよ」

 各人の立ち居振る舞いを目にし、拘束されながら壁上へと上がってくるラズヴァートは呆れ口調。


「入り口は――閉ざされているな」

 ベルの視線を追えば――その先にあるのは鉄門。

 ジージーが守っていた時と同様、堅牢さのある鉄門は固く閉ざされている。


「ノックして開けてくれるってことは――」


「あるかよ。開けたきゃ自分たちでやってみな」

 小馬鹿にした笑みを浮かべるラズヴァート。

 小突きたくもなるが、グッと我慢していれば、


「ファイヤーボール」

 と、ラズヴァートの発言を斜め上の思考で受け止めるコクリコがいつもの如く火球を放つ。


「おいおい、常識のない美少女だな……」

 縛られた者は驚くが、俺達は慣れたもんですよ。

 いつもの光景だからな。

 エルウルドの森では木材で築かれた壁を木っ端にしたコクリコの練りになった火球。


 今回は――、


「おのれ!」

 破壊ならじ。

 着弾すれば轟音。大気を震わせ濛々と煙を上げるが、それが晴れた着弾地点では堅牢さをアピールするかのように、鉄門は傷一つ無く健在。


「城壁の高さは大したことないけど、要塞の出入り口である門の堅牢さは流石と言わざるを得ないな」


「我が魔法で傷一つつかないのですからね」

 自分の魔法が凄いんだということを強調。

 実際、成長しているコクリコの魔法を受けてびくともしていないのは凄いことだ。

 大方、門自体に対魔法防御が施されているんだろう。


「さて、どうするよ」

 びくともしない門の姿に、どうだとばかりにラズヴァートの声の調子が上がる。


「こうなればトールの鉄の象に出てもらうしかないですね」


「鉄の象――だと?」

 コクリコの発言を耳にし、ラズヴァートはその正体が気になるようで俺を見てくる。

 閉ざされた門を前にした時、無理矢理にこじ開けるという手段を選択した場合、ティーガー1に出張ってもらう率は高い。

 もはや破城槌となってしまっている。


「困った時のマスターキー。この地でも解錠を頼むとしよう」

 壁上から飛び降り、要塞側へとお邪魔する。

 城壁と要塞を繋ぐ石畳のスペース部分を活用させてもらい、ポーチから取り出したプレイギアを構え、


「いでよ! 第三帝国の凄いヤツ! ティーガー1!」

 発すると同時に前方に強い輝きが発生。

 輝きが収まり出てくるのは――この世界では何度も目にした逞しく頼りがいのあるフォルム。


「おぉ……。まさに鉄の象だな……」

 召喚を終えたところで、皆して壁上から俺と同じ目線の高さに移動。

 ラズヴァートの驚きの声を背に受けながらティーガー1へと乗り込む。

 何度も乗っているから手慣れたもの。

 車内へと移動してプレイギアにて操作し、砲塔を可動。

 照準を鉄門へと定めてからキューポラから上半身を出す。


「これから門を破壊する。門の側にもし誰かいるなら直ぐさま待避すべし。十数えるからその間に待避すべし!」

 大音声にて伝え、これまた大音声にて十数える。

 

 数え終えたところで車内へと戻り――、


「フォイヤー!」

 と、発しながらRトリガーを押して発射。

 大気を震わせる発射音が轟くとほぼ同時に――着弾音。

 至近距離からの砲撃により着弾部分には穴が空き、鉄門全体は激しく変形。

 

 コクリコのファイヤーボールでは傷一つつけることが出来なかった鉄門だったが、88㎜アハト・アハトの物理火力に耐えるだけの堅固さはなかったようだ。


 素晴らしきかな我がマスターキー。

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