PHASE-1504【ワシャワシャ】

 ――入り口を強制的に作り、尚且つ中から敵勢力が現れないことを確認したところで降車し、ティーガー1をプレイギアへと戻す。

 

 で、


「言われたとおり自分たちで開けてやったぞ」

 と、ラズヴァートに得意げに言ってやる。

 悔しがる表情を浮かべるかと思いきや、


「大したもんだ。それと同時に、お前のおマヌケ剣舞がなんの力も有していないってのも分かった」


「な、なんでだよ?」


「声が上擦ってるぜ」

 ニヤリと笑ってくる。


「剣舞で爆発させる力があるなら、ここでソレを使用すればよかっただけだろ。なのにそれをせずに、見たこともない召喚で鉄の象をわざわざ喚び出した。剣舞による爆発がはったりだったという証拠としては十分じゃねえか?」

 女好きの下半身思考のヤツかと思っていたけど、知恵は回るようだな。


「どうなんだよ?」


「ご想像にお任せします」


「正解だと受け取らせてもらうぜ」


「ご自由に」

 余裕を見せた返しをしたつもりだったが、ラズヴァートが小馬鹿にした笑みでこっちを見てくる辺り、俺の表情はポーカーフェイスとはいかなかったようだ。

 まあいい。バレたところで拘束している時点で相手に伝わることはない。


「勇者よ」


「はいはい」

 問答を行ったルインが俺を呼べば、


「部隊を突入させたが、門から続く広間に敵の気配はないようだ。だからこそ勇者も鉄の象から降りたのだろうが。無駄な事をしたかな?」


「いえいえ、お仕事が速くて助かりますよ」


「トールが遅いだけだ」

 と、いつの間にか突入していたベル。

 ミルモンを左肩に乗せているから本日はやる気に漲っておられる。

 今回はそのやる気が最後まで持続してくれれば有り難い。

 ミルモンには悪いけども、ベルの左肩に座っていてもらおう。


 アイコンタクトで伝えてみれば、むぅぅぅ……っと、困った表情になるも、ベルの戦力を考えれば、自分がここに留まることでやる気になるなら仕方なし。と、判断してくれたようで、苦笑いを俺に見せつつベルの左肩に留まってくれる。


 目と目だけで意思疎通が出来る。

 付き合いはメインメンバーだと一番短いけど、俺の使い魔という事もあって、長い年月を共に過ごしたかのような連携が可能になっているのは喜ばしい。


 ――。


「お邪魔しますよ~。門を破壊してごめんなさいね。弁償は出世払いでお願いします!」

 なんて言いつつ、要塞内へと進入。

 足を踏み入れた事を大音声で伝えてみるも――、


「反応は――なし」

 先ほどまで城壁で戦闘をしていたのに、この静けさよ。

 アハト・アハトで鉄門を豪快に破壊してお邪魔しているというのに即応することもなく、ただ静けさだけが支配する広間。


 こうなると、


「不気味だな」

 ポツリと漏らせば、


「確かに不気味である」


「然り」

 と、俺の側に立つルインが続き、エルダーが相槌。

 スケルトン達による不気味発言ってのもやはりツッコミを入れたくなるけども、ぐっと堪えつつ、


「道案内を頼むよ」

 ラズヴァートに言えば、


「どうしようかな~」

 軽い口調で返してくる。


「えらく余裕だな」


「お前等、要塞に入ったんだからな。しかも門を破壊して。ここからはストームトルーバーだけでなく、大立者を中心とした幹部連中も出張ってくるぞ」

 

 大立者――か。

 

「さしずめタンガタ・マヌのクロウスか」


「馴れ馴れしいな!」

 呼び捨てにて名を出せばラズヴァートは怒ってくる。


「尊敬してんだな」


「当たり前だ!」

 おう、素直だね。

 敬慕の念を抱くってやつだ。


「以前に挨拶は受けた。でもって強いってのも理解している。取り巻きのガーゴイル達もね」


「へぇ。勇者に挨拶はしたとは聞いていたけども、力比べもしたのか?」


「しなくても強さは分かるってもんだ」


「確かに佇まいからでも伝わってくるだろうからな。大立者と幹部は別格だからよ」

 まるで自分の事のように誇ってくるね。

 それほどまでに上位陣の連中を尊敬しているってことなんだろう。

 クロウスたちの実力はプレイギアで調べたから分かっている――というのは当然、黙っておく。

 

 連中のレベルは90超えと80超えだったからな。

 大立者ってポジションがクロウスなら、ガーゴイル達が幹部となるんだろう。

 幹部連中が他にもいるとなれば、ガーゴイルたち同様にレベルは80超えと考えていいだろうな。


「ふむん――」


「なんだよ」

 ジッとラズヴァートを見る。

 こいつのレベルは72だった。

 強くはあったが苦戦というほどの苦戦はなく、勝つ事が出来た。

 今の俺なら、80レベルの奴等とも戦いようによっては勝つ事も出来るかもしれないな。


「ふふん♪」


「なに笑ってんだよ」

 自身の成長が嬉しくて笑いを漏らせば、ラズヴァートが怪訝な表情を向けてくる。


 ジッと見ながらの笑いだったからか、


「ま、まさか……。本当に男色なのか……」

 倒した時の俺の姿と、今の俺の所作で自分が本当に狙われているのではと考えているようだ。


「んなわけあるか」

 素っ気なく返しながらも要塞内を見渡す。

 門から続く広間。

 虎口のような造りではなく、だだっ広いエントランスといった感じである。

 乳白色からなる壁と床。そして柱。


「こういった色味は神聖さがあるな」


「そんな場所に無理矢理に入り込んだ気分はどうだよ?」


「警告をしてからの立ち入りだから許してほしいね。出世払いとも伝えたしな」


「うだつの上がらねえ顔だから出世するにはそれこそアンデッドになって、永遠に働かないと返済は無理そうだな」


「うるせえな。こちとら公爵だって言ってんだろうが。ここでの悶着に一段落ついたら、ちゃんと弁償させてもらうっての!」


「無事にここを抜け出せればの話だけどな」


「おん?」


「返すには骨が折れそうだな――勇者!」


「おんおん!?」

 一段階、強い声になるラズヴァート。

 強い声の中には心なしか焦りも潜んでいる。

 

 そんなラズヴァートの発言を待っていたとばかりに、今まで静寂に包まれていた広間にワシャワシャといった音が響いてくる。

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