PHASE-803【俺は受けるつもり】
こちらの面子からの炯眼を受けつつも、
「それを知っての発言と理解していただきたい。今一度お願いします。私と一騎討ちを」
「おお、よう言うた! これで二度目よ。その生意気な舌が渇かんうちに首を斬り落としてくれる!」
ズンズンと力強く歩む伯爵の襟廻をむんずと掴んで動きを制す。
「硬鞭でどうやって首を落とすって言うんです? というか、いい加減にマグナートが前に出ないようにしてください」
「ですが勇者殿」
納得がいかないのは伯爵だけでなくカイル達も。
ならば自分が。とまで言い始めるのがワラワラと出て来る。
熱を帯びていけば四男坊に対して生意気だと罵詈雑言まで発する始末。
なんかとっても五月蠅いしイラッとしたので――、
ホルスターよりチアッパ・ライノを抜いてダンダンダンッと、乾いた音を三発響かせる。
出来る男である俺は、しっかりと上空に銃口を向けるということは――しない。
仰角四十五度にて誰もいない方角に向けて撃つという常識人。
よく中東なんかだとどんちゃん騒ぎでカラシニコフなんかを上空に向けて撃ったりするけど、落下してきた銃弾で命を落とすこともあるというのを聞いたことがあったからね。
だからそんな事にはならないように細心の注意をするのが俺です。
さてライノのお陰で少しは静かになった。
「あのさ――――子供のいじめじゃないんだから。いい歳した連中がダサい罵詈雑言はやめろ」
と述べれば、完全に静かになってくれた。
お陰で話せる。
なので四男坊に対し、
「俺が一騎討ちを受けるメリットがないよね」
と、続ける。
「……はい……」
返ってくる声は自信がないものだ。
そりゃそうだ。伯爵も言ったけど優勢な方が一騎討ちに応じるなんてあり得ない。
それこそ一発逆転の要因を相手に与える事になる。こんな馬鹿げたことを受けるのは英雄譚や漫画、ラノベの世界だ。
確実に勝つには、このままただ押し込めばいいだけ。
征北騎士団はよく調練されている。
これだけの猛攻に対してもしっかりと防いで堪えようとしている。
もちろん無理な箇所もあるけど頑張っている。
砦からの敗走時、あれだけ怯えて撤退していた正規兵の者達も、ここぞと踏ん張っている。
それだけ征北の面々に対しての信頼と尊敬があるんだろう。
――――ならばその支柱となっている存在をへし折れば、完全に沈黙してくれるだろうか?
――――――。
――――。
――ふむ。
「こっちの条件を受けるなら」
「ゆ、勇者殿!?」
俺の思わぬ返答に伯爵が素っ頓狂な声を上げる。
俺の前に立ち、何を考えているのかと制止してくる始末。狂乱の双鉄鞭の異名は鳴りを潜めていた。
どちらかというと
「こちらは願い出ている身ですので、どの様な事でも受けます」
「ええい! 黙らぬか!」
話を進めるでないと伯爵が睨むも、四男坊は光明を得たとばかりに俺にだけ目を向けて、伯爵の顔は見ていない。
伯爵は何とか説得しようとするものの、俺が耳を貸そうとしないのが分かったのか、王様の所へと馬にて猛ダッシュ。
この間に剣戟の音は完全に鳴りを潜めお互いに様子見。
動きは止まったけども流石と言うべきか、この短時間で高順氏が指揮する騎兵隊は縦深突破を成功させていた。
どう転んでも相手側はこれで撤退することは不可能になったわけだ――――。
「一体どういうことなのだ」
と、王様が前線に到着。
四男坊が跪けば、征北騎士団と公爵兵達もそれに続く。
敵対関係のその礼節に軽く手を振る余裕。
近衛によるラージシールド持ちが十重二十重で展開しているし、全包囲にプロテクションも唱えてあるから、不測の事態にしっかりと対応できた状態。
「トールよ。条件を受けるなら相手の一騎討ちを受けるとは誠か?」
「受けようかと思います」
「ううむ……」
おやおや王様も難色を示すか。
「ないだろうが万が一も考えるとな」
「考えなくてもいいですよ」
強気に返す俺。
以前の俺からだと考えられないよね。胆力だけはしっかりと備わってきたもんだよ。
要は勝てば良いだけという楽観的思考なんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます