PHASE-802【信頼されてます】
「援軍の合図を」
と、四男坊が側にいる征北騎士団に告げれば鏑矢が飛ぶ。
独特の甲高い音は要塞にも聞こえていることだろう。
でもさ――、
「援軍が来ると思う?」
万に一つないだろうという俺の質問に、美丈夫は何とも言えない笑みを向けてくるだけ。
渋面による笑みは俺の発言が間違いないと分かっているってことだろう。
「さあ勇者殿、一気に決めてしまいましょう」
俺の周りでは伯爵が硬鞭を振るっての大立ち回り。
流石にマグナートクラスを一人に出来ないとばかりに、スケルトンライダー達が掩護に回っていた。
川の時はドローンで見てたから何となくだったけど、スケルトンライダー達、間違いなく伯爵の大暴れに呆れているな。
アンデッドを呆れさせるなんて、伯爵は大したもんだよ。
褒められたもんじゃないけど。
「なんとも絶望的だ……。拒馬を突破されてまださして時間も経っていないというのに……」
四男坊が暗い声で漏らす。
元気いっぱいのゴロ丸が残りの拒馬を破壊し、王軍の進軍が更に捗る。
俺の周囲ではパーティーメンバーが大立ち回り。
魔王護衛軍精鋭であるレッドキャップスとの戦いを経験しているからか、歯ごたえのない相手だとばかりに、チコから飛び降りて戦うコクリコは、魔法よりもミスリルフライパンによる攻撃で次々に相手をダウンさせていく。
「次ぃ!」
と、煽っていく始末。
チコはコクリコの背後から迫る騎士達を払うようにして倒していくサポート係。
魔大陸ではコクリコから受けたファイヤーボールの恨みもあるだろうに、良い子だなチコは。
シャルナはムキになりつつもリンと一緒になって、魔法合戦でも繰り広げるように、非殺傷の魔法で次々と征北に公爵兵たちを吹き飛ばす。
ゲッコーさんは無駄に動かず、虚を衝き戦闘不能に追い込んでいくスタイル。
相手が捕捉しようとしても、直ぐさま独特な歩法で距離をとり、そうかと思えば背後に回り込むと次には絞め技で落とす。
ベルに至っては言わずもがな。
鞘突きのレイピアで小突かれ、長い足による蹴撃。
白き髪を靡かせれば、戦闘の最中でも相手は見入る。
圧倒的な強さに見入り、美しさにも目を奪われるといったところだ。
メイドさん達に冒険者が王兵よりも前に出て次々と征北および、正規兵たちを叩き伏せていく。
俺のように優しい面子ばかりではない。しっかりと命を奪っていく者達も多い。
「もう一回、言うぞ。包囲される前に撤退するか投降しろ。後者がお勧めだ」
四男坊に最後通牒とばかりに強めの語気で伝えれば、
「勇者殿――いえ様! お応えいただきたい」
四男坊の大音声。
丁々発止の戦場でもしっかりと通る良い声だ。
何事かと双方の動きが止まる。
「応よ!」
快活に返してやる。
俺の提案に乗ってくれれば嬉しいところ。
四男坊は手にした二本目の槍の穂先を地面へと向けつつ俺へと近づくと、目の前にてゆっくりと馬から降り――、
「この様な状況下での発言としてはあり得ない事ですが、勇者様! 私と一騎討ちをしていただきたい!」
ほほう。一騎討ちと来たか。
それで全てを短期的に解決しようと考えたようだな。
素直に投降か撤退を選んでくれなくて残念。
「この痴れ者がぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
――…………伯爵……。五月蠅いです……。
鼓膜が持ってかれそうになった。なんでこの人は度々、俺の横でデッカい声を出すのかな……。
まあ、お怒りの理由は分かるけども。
「なぜ貴様程度の存在が勇者殿と一騎討ちが出来ると思うのだ! そもそもがこちらは優勢。そのような事をする必要がない」
「拒めばそちらの士気は落ちますぞ。勇者が逃げたと」
「馬鹿か貴様。貴様程度に逃げるような御方が、魔大陸に赴き、少数にて大立ち回りをするものか! こちらは絶対的な信頼を勇者殿に持っている。貴様の提案を蹴ったところで士気など挫けぬわ! むしろ貴様の発言が無礼極まりないとして、怒りで士気が上がるだけよ!」
「その通り。調子に乗るなよ! 俺が相手になってやる」
と、ここで現れるのは段平を担ったカイル。側にはマイヤもいる。
内のギルドの古参で腕巧者の面々は、炯眼にて四男坊を睨み付けている。もちろん周囲のギルドメンバーに王兵。メイドさん達も不機嫌。特にランシェル。
俺に対しての一騎討ち発言が甚だ不遜だということみたいだ。
俺って、知らないうちにえらく信頼されてたんだな~。
嬉しいじゃないの。
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