PHASE-776【リサイクル】
半分ほど開いたところでゴロ丸がピタリと動きを止める。
何かを察したようだ。
後ろにいるチコも小さく唸っている。
「いるようですね主」
「そのようで。ゴロ丸」
一気に開いていいと指示をすれば、勢いよく開き、頭と胴体が一緒になった体を武器庫の中に半分ほど入れて覗き込む。
「キュゥゥゥゥゥ――」
わざとらしく低い声を出しているつもりみたいだが――そんな事はなく、ただ可愛かった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
でも武器庫の中に入っている者には効果があったようだ。
リーンと小気味の良い音はゴロ丸から。
声と共に突っ込んできた兵士が手にする戦斧がゴロ丸のボディに見舞われた。
刃渡りの広い半月の形をした蛤刃からなる戦斧は、膂力のある者が使用すれば、タワーシールドごとその後ろで守られている者を上段から真っ二つに出来るイメージを与えてくる。
しかい今回、見舞った相手はミスリルゴーレム。しかも振るう者は標準体型。
「――キュ?」
なので傷なんて一切ない。同じ質量のミスリルで、且つ腕っこきが振るうなら、鉄の斧でもワンチャンあるかもだろうけど、ミスリルの巨塊となれば無意味な攻撃だ。
「キュウゥゥゥゥ」
悪い奴だとばかりに、攻撃を加えてきた兵士の首根っこを掴んで持ち上げる。
人間が猫の首を摘まんで持つかのようだった。猫を抱く時は、しっかりとお尻部分にも手を添えて抱きかかえよう。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
簡単に掴まれれば兵士は恐慌状態。
手にした斧をブンブン振るうも、虚しい風切り音だけだ。
「畜生! やけくそじゃぁぁぁぁあ!」
「随分と気合いが入ってるな~」
「アレは最早、自暴自棄と言うべきでしょう」
自暴自棄か。確かにやけくそって言ってる時点でそうだな。
武器庫から更に出てきたのは二人。
どうやら三人が隠れていたようだ。
「キュ」
軽く手で払うだけで人が簡単に宙を舞う光景。
「……死んでないよな」
あまりにも軽く飛ぶから心配になってくる。
ゴロ丸に吹き飛ばされた二人は一撃でKO。
掴まれている兵士もその光景に恐慌状態を通り過ぎて、放心状態になってしまった。
「主。こちらに」
「いやいや勝手に入らないでくださいよ」
可能性は低いけど、まだ隠れているヤツがいるかもしれないのに、先生は一人で武器庫へと入っていく。
周辺の建築物も武器庫なんだろうけど、俺たちがターゲットにしたのはその中でも大きな建築物。
先生に続いて俺も入る。
地面に転がった二人は呼吸をしていて無事だったので、とりあえずチコの前足で拘束させ、放心状態の一人はゴロ丸にそのまま拘束させた。
「――ほほう。食糧庫同様にテンションが上がるね」
「最高ですね主」
武器庫の中にはずらりと様々な利器が並んでいる。
形状は同じ物ばかりだが、槍やその他のポールウェポン。弦の張っていない弓にクロスボウが壁のフックに綺麗にかけられている。
床には樽が等間隔で置かれており、中には鞘に入った剣がいくつも入っていた。
バックラーなどは槍なんかと一緒で壁にかけられていて、タワーシールドのような大型の盾は、剣の入った樽に立てかけられている。
「この数。素晴らしい」
と、先生は壁にかけてある槍の穂先に指をあてつつ、
「まあ、作りは普通ですかね」
と、継いだ。
「俺たちの目が肥えているんでしょうね」
「それもあるでしょう。これらは全て素材として炉にくべ、ドワーフ達を中心とした鍛冶職人の皆さんに、新たな利器として生み出してもらいましょう」
この戦にて必要となるならばそのまま使ってもよし。
ないならこれらを回収して王都で新たな素材として使用する。
盾はそのままでも十分なのでこのまま使用してもいいという判断。
――遅れてやってきたメイドさん達に協力してもらい、兵の拘束と武器庫全体の確認をお願いする。
周辺の建物からは同型の鎧なんかの防具も確認。
革製、金属製ともに、作りは良質なものだったので喜んでしまう。
全兵、金属製のケトルハットで兜は統一しているし、防具の技術力は高いな。
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