PHASE-777【毛皮マントには手加減無用】
「さて主」
「続きましては馬小屋ですね」
俺たちが廠内を探索している間にも、S級さん達が周辺警戒と廠内の索敵を行い、隠れていた――というより逃げ遅れた敵兵を次々と拘束してくれる。
なので俺たちは悠々と見て回れる。
まあ、俺たちが会敵する事もあるけど、人手が少ないから仕方がないところ。
会敵しても脅威でもないしな。
「俺たちの馬より馬体が大きいですね」
ダンブル子爵が騎乗していたのと同様に太い足だ。
農耕馬ほどの大きさではないけど、俺のダイフクよりも筋骨隆々。
ダイフクは長距離も走れる駿馬。
ここの馬小屋のは体力重視って感じで、正に軍馬。
「北国の馬ですからね。馬体も大きくなるのでしょう」
テレビで見たことあるな。同種でも寒冷地を生息地にしているものは大型化するって。
たしか大きくなって体の体温を維持するとかなんとかってやつだな。
「ベル――ベルクロム……ベル、ベル、ベル……」
「ベル殿の名を連呼しているようにも聞こえますが、ベルクマンの法則と言いたいのでしょうか」
「多分それです」
答えを聞かされても偏差値ど真ん中の俺はしっくりとはこない。
先生が普通に横文字を言うのには驚かなくなったけど、知識の広がりには驚かされるね。
馬小屋の馬たちはよく調教されているようで大人しい。
チコが近くにいても騒がないのは、軍馬として戦いの訓練を受けているから驚かないんだろう。
大型のモンスターもいるような世界だからな。そんなのと対峙しても大丈夫なように調教もされているんだろう。
廠内ではS級さん達が既に軍馬を移動のために使用していて評価は上々。
総じて言えるのは、
「大収穫だ」
「然り。ですがまだ油断は出来ません」
当然のことながらここは敵から包囲されやすい地点。
手に入れた物の多さに喜んで気を緩めないようにしなといけない事は、俺でも分かっている。
「これらは全てが終わってから有りがたくいただきましょう」
終わってから俺がトラックを召喚して、全てを王都に運ばせ装備なんかを強化し、王都だけでなく周辺地域にも分け与えるようにしよう。
――――廠内をあらかた見て回る頃には、召喚に時間制限のあるゴロ丸も帰って行った。
前回同様にサムズアップしてから地面に沈んでいくという細かい芸。
なんだろう。召喚者の意思がしっかりとゴロ丸に伝播しているのかも知れないな。
兵士を攻撃してもその兵士も死ぬことはなかったし。
俺が言わずとも、命を奪うという行為は駄目と分かるようになってるんだろうな。
アンデッドに対しては猛攻撃だったけど、あれは俺が相手を倒すというのをしっかり意識していたからなんだろう。
意思疎通を口に出さなくても出来るのはいいね。
「トール君」
壁上で北側を監視していたバラクラバのS級さんが俺を呼ぶ。
北側ってことで何なのかは理解できるので、
「数は?」
と、間をはしょって聞けば、
「騎兵を中心とした約二千ほどだ。麓側からだけど、装備からして征北ではないようだ」
「てっきり動くと思ったんですけどね」
「黒毛皮のマントが中心となった軍勢だね」
「ああ。なら手加減はなしでいいですね」
どうやら要塞からの手勢が出てきたようだな。
――だとしたら対応が早いね。てことは、
「麓にも出てきているのでしょうね。実力も無いのにカリオネル殿の威光を笠に着て出しゃばっているのでしょう」
俺の思考を読み取ったかのような先生の発言。
「にしても二千か。正規兵もいての数ですよね?」
「ああ。だが殆どが傭兵のようだ」
ほう、殆どか。かなりの兵数からなる傭兵団なんだな。
「破邪の獅子王牙なる語呂の悪い珍妙団は、珍妙団と名乗っていますがその実ただの愚連隊です。直接目にした主なら分かるでしょう」
「……はい」
あえて珍妙団はツッコむまいよ。
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