PHASE-778【エゲレス】

 アホな傭兵団ではあるけど、先生が独自に調べた内容から珍妙団と名付けたんだろうな。


 この珍妙団こと破邪の獅子王牙は、ミルド領にて幅を利かせているそうで、領地内の貴族豪族たちの小さないざこざに参加して活躍しているそうだ。

 活躍と言っても悪名を広めるってことなんだろうけど。

 

 公爵領内にて土地を預かる貴族や豪族が、お互いの権勢のための小競り合いに正規兵を動かすというのは流石に出来ない。

 大事となれば公爵の耳に入るからだ。そうなると領地を没収される事にもなりかねないからな。

 でも権勢を得る為には領地を広げたいのも事実。広がればそれだけ収穫も増えるからね。

 なので双方同意の下、分与を名目として小競り合いをするそうだ。

 無論、正規兵は動かせない。そこで活躍するのが傭兵団や奴隷たち。

 彼らを手駒として動かし、奪い合いをしているという。


 本来は公爵なり馬鹿息子が本腰入れて止めないといけないんだろうけど、馬鹿息子は戯れ程度にしか見ていないようで、自分に火の粉がかかってこない限り動く事もないそうだ。

 むしろ練兵になるという事でやらせているという感じだそうだ。

 覇王の側には強者しか侍られない。

 ならば強くなって俺の側に来い。

 って、領地では触れ回っているという……。

 説明を聞いているだけでアホさに当てられて疲れてくる……。


「結果、征北騎士団でなく、名を広めた傭兵たちを取り巻きにするって選択をしたわけだ……」

 強者じゃなくて自分におべっかを使うヤツばっかりで固めただけなのが分かる。

 

 公爵嫡子の威光もあり、領内のいざこざに参加する事が生業となった傭兵団。

 報奨もそのつど増えていき、傭兵団に参加する人数も増えていったそうだ。

 増えていく面子は、領地にてなんの職にも就かず、悪さをしていた野放図な連中がほとんどで、腕っ節に自信ありと自負したのばかり。

 

 ――……道理で弱いわけだよ。

 装備はいいけど実力は伴っていない。

 自負しているだけのごろつきだもんな。町中での喧嘩ならまだしも、ろくな訓練も受けていないのが戦場で実力を発揮出来るわけがない。そもそも実力が無いんだから。

 マジックカーブだってそう。ただ体に彫っているだけで、そこで満足して効果を上げるって事をしていないんだろうからな。

 もちろん、そんな連中を束ねる奴らはそこそこの実力はあるんだろうけど。


「でもまあ、敵じゃないな」


「所詮は珍妙団ですから」


「気に入ってますね」

 軽快な足取りで先生と壁上へと移動し、先生は双眼鏡。俺はビジョンを使用して見やる。

 確かに傭兵による編制だった。

 少数の正規兵からなる歩兵がそれに続いているが、曇った表情から士気の低さが分かる。


「中々に強そうですね。ですが我が名声の糧となってもらいましょう! ハッハッハ!」

 俺たちよりも先に壁上に上っていたコクリコがかかと笑い、さあ来いとばかりにワンドの貴石を輝かせてのポージング。

 左手首のブレスレットと、右足のアンクレットも呼応するように輝いていた。

 装身具に負けないくらいに琥珀の瞳も輝いていたが、その瞳の鑑識眼は皆無のようだ。


「申し訳ないが活躍はまた今度で」


「なんですとお!?」

 バラクラバの一人にコクリコが噛みつく。

 まさか自分の活躍を全て奪うつもりですか! と詰め寄れば、


「私がお願いしているんですよ」

 と、先生が間に入る。

 この拠点には近づけば危険というのを今回の一撃で理解させたいという。

 心配なのは相手が想像を超えるお馬鹿なので、何度も同じ行動を取らないかが心配だそうだ。

 その前にこちらが大きく動くでしょうけど。と、言う辺り、ライム渓谷側が大々的に行動しているんだろう。

 だとしてもコクリコは納得いかないご様子。

 なので――、


「コクリコがわざわざ相手をするような奴らじゃないってことさ」


「ほう」

 言えば直ぐに嬉しそうな顔になる。


「流石は主。付き合いも長いだけあって、コクリコ殿のあつかいがお上手です」

 と、小声の先生。

 実際にコクリコの敵じゃないのは事実なんだよね。

 それに十三才の女の子が人間と戦う――って以前は海賊なんかと戦ってたな。

 俺よりもこの世界の人間だから血生臭いのにも慣れてるかもしれないけども、


「ここはS級さん達に任せよう」


「トールは出ないのですか?」


「まあ、出る必要がなさそうだからね」


「その通り。ギルドの会頭に幹部の皆さんがわざわざ出ることはないよ」


「ほほう!」

 俺よりもS級さんの方がコクリコをヨイショするのが上手いな。

 幹部という単語が琴線に触れたようで、ご満悦とばかりにフンスッと鼻息を一つ出せば、


「いいでしょう! ここは任せましょう。ただし私に相応しい相手が出て来れば、その時は出ます」


「了解です」

 敬礼と一緒に返答しつつ、ゲッコーさんみたく宙空より取り出すのは――、エゲレスさんの優等生であるL96A1。ボルトアクション式のスナイパーライフル。


 つや消しが施された黒色からなるL96A1のバレル先端にはサプレッサーを装備。

 いつの間にか壁上には他のS級さん達が同様の装備で待機。

 

 膝射の姿勢となって、胸壁にバイポッドを展開しての依託射撃にて待機。

 サプレッサーは消音だけでなく、マズルフラッシュを抑えることも出来るから視認されにくいってのも強味だよね。

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