PHASE-916【見えねえよ】
そのコクリコに続けとばかりにラルゴ達も食べ物を漁り始める。
普段口にしないような物ばかりだからか、興奮して食べている。
ギルドにおける俺の私兵みたいなものだと説明すれば、コクリコの時と同様の表情と発言をいただいた……。
やべえな。俺達って間違いなく上流階級に不釣り合いだな。
恥ずかしいけど、俺も似たような食べ方をするだろうからな。
別のテーブルを見れば、コクリコよりも幼い子供が皿とフォークを使用してよく咀嚼して食べている。
教養のあるしっかりとしたお子さんだ。
う~む。
「親族がいるなら、本来はそっちに爵位を継承するべきなんでしょうけどね」
育ちの良い子供を目にするとそう思わざるを得ない。
「トールを超える才人はいない。それにこの領地は敗戦を受け入れて全てを返還する事になるはずだったからな。ここにいる者たちは本来、離散の憂き目に遭う者たちだったのだ。それをトールが公爵となりゼハート家を継いだことでこの者たちは救われた。感謝しかない。そうであろう?」
爺様がそういえば、皆さん首肯と笑みで返してくれる。
コクリコ達を見る時のような作り笑いではなく、感謝からくる笑みだというのは分かる。
本来、公爵家の血筋とまったく関係ない存在が後を継ぐこと自体あり得ない事だし、血で血を洗う家督争いになるはずなのに、すんなりと継承が進むのは爺様の威光もさることながら、暫定公爵とか言って好き勝手やってたカリオネルへの反発もあるのかもな。
それに貴族の離散は最悪らしい。すべてを失えば令嬢などはそれまで何の苦も無く生活を送っていたからサバイバリティがない。
金を稼ぐために元貴族という肩書きをステータスとして、高級娼婦に身を堕とすこともあるらしい。
俺の前で丁寧に食事をしているような男の子も好き者専用の男娼になる可能性もあったそうだ。
そのルートが消滅しただけでも俺には感謝しかないという。
「お前たちいい加減にしろ! みっともない」
ここでベルが登場。ガツガツと食い漁るコクリコ達は途端に大人しくなる。
でもって公爵家と血縁関係にある者達がベルの美しさに見とれたのか、俺の周辺では時が止まったかのように静かになる。
「流石に美姫を見れば、男女関係なく見とれるようだな」
まるで自分の孫娘を誇るように爺様が語る。
どうも爺様は俺を含めたパーティーメンバーを孫として扱うつもりのようだな。
ゲッコーさんは息子ポジションだろうか。
「ゲッコー殿も飲んでばかりいないで少しは注意を」
「はいはい」
息子ポジションは酒ばかり飲み、しっかり者の孫娘に怒られるという光景。
「賑やかなことだ。これくらいが丁度いい」
このデカすぎる屋敷では大騒ぎしてくれないと静かすぎて寂しくなるという事で、爺様は今回は無礼講だと言い、好きなだけ騒いで飲食を楽しんでくれと伝える。
偉い人の無礼講ほど信用できないものだが、ここではそれが信用できるようで、免罪符を得たとばかりにコクリコとラルゴ達が再び豪快に食事を始める。
――――あらかた食事を楽しめば、
「大将」
「なんだラルゴ」
「時間はあるか?」
「今はゆっくりしてる」
それはよかったと、子爵邸での相談事を聞いて欲しいと言ってくる。
「名無しの事だが」
「名無し? なんだよ名無しって?」
「あいつのことだ」
褐色の男性。奴隷として町で売られていた男性を指さす。
「え、名無しなの」
「大将は色々と忙しいからな。下の連中は俺達が面倒を見るが、正式に大将の部下となるんだからな。名前がいるだろ」
「名前がいるって。ええ?」
「俺だって飼い主からつけられた名前をそのまま使用してるしな」
そうだったな。ラルゴって名前は、名前が有ったほうが何かと便利ということで適当につけられたって話だったな。
褐色の男性は物心つく頃から両親はおらず、下男として名も無いままに育ち、働いていた家も貴族や豪族達の領地争いで消失し、そのまま商品となるために囚われてしまったという。
「読み書きとかも出来ないのかな」
「会話はちゃんと出来るが読み書きは少しだけだってよ。幼い時から下男として働かされ、十五で商品になっちまった。腐った世界だ」
「十五か。それからずっと点々と商品として買われていったんだな……」
気が沈むね。
「いや、今回が初めてらしいぞ」
ん? どういうことだ?
「いやいや、十五の時に商品になったんだよな。十年くらいは人としての尊厳を奪われた商品あつかいの日々だったんだろう?」
「なに言ってんだ大将? そうすると二十五くらいになるぞ」
「そうだろう」
どっからどう見ても青年じゃねえか。
「違うぞ。今現在、十五だ」
「……うそ……だろ」
「嘘じゃない」
いやいやいや! マジかよ。あの褐色さん俺より年下なのかよ……。
見えねえよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます