PHASE-917【絶対に廃止しないと】

「かなりの苦労をしたんだろうな」


「そうだろうよ……」

 苦労すると老けるってはいうけども、俺より年下とは思えない。

 初対面なら間違いなく敬語を使う相手だぞ。


「でだ、あいつは見込みがある。公都までの移動の間に剣の腕を見てやったが、飲み込みが早い。半年もあれば俺よりも強くなるだろう」

 ――……正直ラルゴの強さが分からないんだけどな。

 一般的な兵士よりは強いだろうけど、申し訳ないが並よりやや上って感じだからな。

 要塞ではコクリコと一緒に活躍もしたようだし、傭兵団相手にも負けてなかったから、この世界だとマナ未習得者というカテゴリーなら強い方に分類されるのかな。


「素養があるなら後は本人次第だけど、やる気はあるんだよな」


「自由にしてくれた事への感謝が大きい。大いに励むつもりだそうだ」

 商品となっていた時は人生を諦めたような顔だったが、今は強い目になってる。

 

「お~い」

 ラルゴが腕を派手に振り、大声で褐色君を呼ぶ。

 公爵家の者達を前にしての所作としては粗暴で下品。

 俺の私兵のようなポジションということを理解しているから、皆さん顔の表面には不平を出す事はない。

 正式に俺の私兵となるなら、こういった場に見合った礼儀作法と服装を教え与えないといけないんだろうな。

 作法はしかたないとしても、装備は直ぐにでも準備は出来るからな。まずはそっちを優先するか。

 寒冷地用の厚着と生産性重視のレザーアーマーは、征北や近衛と比べるとはっきりと見劣りしてる。

 俺が恥ずかしくなって……なるほど……な。貴族ってのはそういった見栄も周囲に見せないといけないんだなというのを垣間見た気分だ。

 公爵の私兵というポジションだからこそ、良い装備で揃えないといけないんだな。

 公爵となれば自由に動かせる金ってのもあるんだろうけど、それを使って良いのだろうか? 公私混同みたいに見られないかな。

 領民達からのイメージダウンは避けたい。


 となると、


「自腹か……」

 勇者として、会頭としての立場で稼いだ金から出さないといけないな……。

 パーティーメンバーから少しは出資をしてほしいところ。

 などと考え事をしていれば、褐色君が俺や公爵家の面々に会釈をしつつ恐る恐るこちらへとやって来る。

 周囲が高そうな服装で着飾っている中、質素な服装というのは恥ずかしいというより、申し訳ないといった感じがあるようだ。


「何でしょうラルゴさん」

 ああ。確かに姿は二十代だけど、声の感じは俺と近いものがあるね。


「ちゃんと礼を言いたかったんだろう」


「あ、はい。勇者様、公爵様、会頭様……」


「好きに呼んでいいよ」


「では勇者様。自分を救ってくださってありがとうございます」

 呼称に勇者を選択したのは、救われた思いが大きいからだろう。


「勇者として当然のことをしただけだよ」

 なので勇者として対応する。


「このご恩は全身全霊の忠義でお返しします」


「自由になったんだから、別に俺の所じゃなくてもいいんだけど」


「お願いです。働かせてください!」

 俺の所じゃなくてもという発言を見捨てられると受け取ったようで、懇願するように俺へと縋ろうとする。

 こっちとしても人材は多ければ多いほどいいから、働いてもらうのはありがたい。


「君が留まりたいなら好きにするといいよ。ただし薄給だよ。冒険者になるなら話はまた変わるけど」


「いえ、自分はトール様の下で励みたいのです」

 なので冒険者とかには興味がないそうだ。

 ただ働きでもいい、今までがそうだったんだから。少なくても給金がもらえるという前提の話にむしろ驚いていた。

 どんだけ辛い日々を過ごしてたんだよ……。

 ラルゴ達の装備を自腹で調達しないといけない程度の事で、気が重くなっていたのが恥ずかしい。

 そんなもん褐色君の今までの人生に比べれば些末な事だったよ。


 奴隷制は絶対にこの地だけでなく、他の地でも二度と生まれないように仕組みを作っていかないとな。


「じゃあ今後もラルゴ達と一緒に俺を支えてくれ」


「分かりました!」

 快活な声で返事をもらう。

 その時の笑い顔を見て、俺と同年代なんだというのが分かった。

 大人のような顔立ちだけど、笑みには幼さがあったからね。

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