PHASE-915【スケールが王都以上】
「もっと欲しい物があるなら言ってくれ」
「話の分かるお爺様ですね」
「じぃじでいいのだぞコクリコ」
「考えておきます」
別に孫娘ポジションじゃないぞ。俺のパーティーメンバーだからなのか、家族として見ているのかな? にしても上からの物言いが流石はコクリコ。
態度が大きくても怒るような事はない。本当に言えばなんでも与えてくれそうだな。
コクリコはともかく、俺はカリオネルを反面教師として甘えないようにしよう。
――。
「うへ……」
「これは壮観だな」
横ではベルが感嘆の声を漏らす。
根が庶民の俺は、あまりにも立派な屋敷に気圧されているというのに。
――公都ラングリスの外周防御壁から二日を使用して公爵家の屋敷へと到着。
公都の中心ということもあり、この辺りはセントラルと呼ばれるそうで、富裕層が多く住む地区だそうだ。
富裕層が多いとはいえ、この屋敷は規格外すぎる。
王都の城壁を越える防御壁はここに来るまでに五つを潜った。
そしてミルド領での拠点となる屋敷も同サイズの防御壁に守られている。
公都は六重からなる防御壁に守られた堅牢な地ということになる。
そして六つ目を潜れば一般の兵はいない。
征北騎士団と、ケトルハットにフルプレートからなる装備の近衛兵達だけが公爵邸の敷地内の守りに就くことが許されているそうだ。
にしても広すぎる。
湖を覆わせる池に、先が見えない庭園。庭園っていうよりもはや森。
それらを眼界に入れつつ石畳の上を馬で進めば――、城規模の屋敷が眼界へと入ってくる。
「収容人数どのくらいだよ……」
「非常時は近隣の民の避難場所にもなります。敷地内には田畑も有り、屋敷の者たちだけなら自給自足も可能です。本来ならば十万が一年は籠もれるだけの食糧も備蓄されていました……」
この公爵邸だけでも十万を一年は飢えから救うことが出来るんだな。
公都の各所には同様の機能を持った屋敷や倉があり、公都の民草を半年は飢えから守るだけの蓄えを有しているという。
公都全体が不落の拠点となるわけだ。
気になったのは、説明をしてくれるヨハンの声が言葉尻で暗くなったこと。
なので質問をすれば、聞かされた内容で力が抜ける……。
備蓄された食糧は、今回の戦いに参加した傭兵と、兵を提供してくれた諸侯の分の兵糧を自分の力を誇示したいがためにカリオネルが全て賄ったそうで、兵と傭兵たちの為に全てを大盤振る舞い。
結果、屋敷の備蓄は底を突いたそうだ。
全くもってやってくれる……。
今回の戦いで糧秣廠にあった食糧を回収できただけでも良かったよ。
現在は食糧を補填するため、ミルド領の各地から集めているということだ。
しかし魔王軍との有事に備えるため、各地も温存しないといけない事から、公爵邸の倉が十分に満たされるのは大分先になりそうだ。
あの馬鹿は本当に……どうにもならない馬鹿だ……。
「敷地内の騎士団や近衛の兵力は?」
嘆息まじりに質問。
「敷地内で問題が発生しても、征北騎士団と近衛の官舎が敷地内の四方にあり、即応できる兵は三千。公都全体ならば一万を即動員できます」
「心強いね」
即応と限定しないなら三万は動員できるという。
公都だけで三万。
ミルド領全体となれば大部隊が編制できそうだな。
「ですが質の方がですね」
「それは大丈夫。今までは上が駄目駄目だっただけ。ちゃんと調練すればしっかりとした兵達になる」
「左様です」
先生も言ってくれればヨハンも柔和な笑みを湛える。
今までとは違う。だからこそ兵がしっかりと兵としての役目を果たせる事が出来るという喜びの笑みなんだろうな。
調練が大事なのは言わずもがな。これに加えて当分の間、公都には先生が滞在する。
滞在によってユニークスキル【王佐の才】が発動するから、この広大な公都の人々はそろって有能になる。
短期間で公都に住まう人々が大い成長してくれるというものだ。
――。
「――さあ堪能してくれ」
「言われる前から堪能してますよ」
本日は俺がこの屋敷の正式な主となった事を祝うという名目で、身内だけで集まって食事を楽しむというものだった。
身内ってのは、パーティーメンバーにギルドやそれに協力してくれる面々。王様に家臣団。公爵家に関わる方々。
公爵家の血縁者たちと大広間にて顔合わせの挨拶を行っている中、貴族社会とはかけ離れた豪快な食事を行うまな板の存在。
出される食事はバイキング方式。テーブルに置かれればそこは自分のテリトリーだとばかりに誰も近づけさせない食い意地……。
「見事だな」
爺様は豪快さに感心しているが、血縁関係の方々は引き気味。
申し訳ないと俺が謝罪すれば、当主のお供の方なら許される範囲であり、日夜、驚異と対面して解決している勇者の仲間ならあのくらいの豪快さが必要です。
と、表情と発言が
コクリコ……恥ずかしい子!
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