PHASE-556【いざ廃城へ】
これから出会うのはネクロマンサー。
もしも戦いに発展すれば、俺の言うことを聞いて行動できるとしても、チコではきついだろうな。
ここで預かってもらって、メイドさん達に面倒をお願いしよう。
チコのレベルは17。メイドの中でも若手であるランシェルの動きから察するに、他のメイドさん達も同等かそれ以上だろう。
チコがもし言うことをきかなかったとしても、ここのメイドさん達ならきちんと躾けてくれるはずだ。
その事を告げれば、ベルは些か不満げだった。
モフモフに騎乗して、雪山を進むという乙女の理想があったようだ。
――――さて。
「しっかりと揃えさせてもらいましたよ」
「ありがとうございます」
厩を後にして直ぐさま侯爵に協力をお願い。
次の日には別邸の大広間に、最高の物を用意してもらえた。
寒冷地用の装備が一つ一つ衣紋掛けで並べられる光景。
他にも小瓶に携行食など、心配していた物は問題なく揃えてくれている。
透明の小瓶には薄緑の液体。ポーションのようだ。他にも青色の液体もある。質問すれば青色の液体は、毒を治療する高価なアンチドーテだった。
ポーションもハイポーションと、飲めば即効果が現れる冒険者が欲しがるものだ。
ありがたくいただく。魔大陸に行く前にも欲しかったな。と、思ったけども口には出さない。
女性陣は衣紋掛けの前で品物を念入りに見ている。
服屋で服選びをする女性ってこんな感じなんだろうな。
「チコは連れて行けないけど、これはこれでモフモフだぞ」
「うむ……」
衣紋掛けの衣服を目にして、こういうモフモフではないとベルは思っているようだ。
並ぶ衣服は、キングエルクと呼ばれるヘラジカの毛皮から作られたファーコート。
触れて少し力を加えてみれば、ふわふわの毛皮が手の形に沈んでいく気持ちよさがあり、包まれた手がとても温かくなる。
雪のように白くて美しいコートだ。
他にはジャイアントヘアなる大きなウサギの毛から作られたウシャンカ。
ロシアの人が被っているモフモフの帽子だ。
同様の毛で作られた手袋とブーツ。
色はウシャンカもブーツも灰色に近い白色で、コートの白にマッチしている。
コート同様に手触りは心地いい。
「ベル殿は動物を大切にしている方と聞きます」
と、弱々しく侯爵が弁解させてほしいと言ってくる。
別段、ベルだって生き物の命を奪って服を作ることは許さない。とは言っていないけどな。
モフモフを愛しているからか、その辺に敏感になっている侯爵。
ベルだって肉は食べるんだけどね。
頼みもしていないのに、侯爵が語り出す。
――――キングエルクは衣食として、このバランド地方の北の方では家畜として育てられているということ。元々野生の動物であるジャイアントヘアも同様であるということ。
後者の方は生きている大きなウサギから毛だけを梳いて、その毛で防寒具を作っているそうで、無駄な殺生はしていないと強調。
北の地方において、これらの衣類が一番の収入源だと力説。
それを聞かされるベルはリアクションに困っていた。
ベルだって愛玩と、生きるための血肉になる生き物との区別はしているからね。
その辺が付き合いの短い侯爵は分かっていないようで、なぜか許しを請うていた。
「いえ、あの……。あ、ありがたく使用させていただきます。閣下」
ベルの作り笑いを目にして、侯爵は胸をなで下ろす。
ベルに変なイメージがついたような気がする。
全ての生き物は私が守る! てな感じで侯爵が全速力で勘違いしている。
「よし、じゃあ各々ちゃんとサイズが合うか調べてみようか」
「勇者殿はよいのですか?」
「はい、火龍装備なんで大丈夫です」
熱耐性だけでなく、寒さにも強いのはありがたい。こういう時の伝説級の装備って自慢したくなるね。
ゲームでも、誰も持ってないレアアイテムを俺だけが持ってるってなると、得意げになったもんだ。
で、俺以外が持ち始めた途端に、俺のヒエラルキーも普通になるっていう寂しさも経験している。
ま、この世界で火龍装備を超えるってのは難しいだろうけどな。
――――バランド地方、北の町アルゼア。
元々は村だったそうだけど、百年ほど前に近隣の村々と合併していき、町へと姿を変えたそうだ。
寒冷地帯ということもあり、人と人との協力が第一という理由で町になったらしい。
この地では俺以外の面子が着ているモフモフ装備が特産で、町の生活水準は高い。
といっても、このバランド地方全体の生活水準が高い。
それだけ侯爵と侯爵が選定した行政官。そして貴族や豪族も権力に溺れず才能を発揮しているということだ。
権力に溺れれば、外の敵、つまりは魔王軍にそこを突かれるからと、歴代の辺境防備官は、その辺りの法をかなり厳しくしているようだ。
現辺境防備官は、魔王軍のヴァンパイアに体を乗っ取られていたけどね。
その事はオフレコにしないといけないよね。この地方の規律が揺るがないためにも。
「さて、買い出しをする事もないから、このアルゼアから北に位置するアケミネルス山は廃城のマルケネス城へと、山城観光に行きますかね」
「なにを不謹慎な! 我々は交渉に行くのですよ」
「コクリコに言われるとは思わなかったよ」
これから緊張の連続だろうから、場を和ませたいだけだったのに。
大賢者とか呼ばれて、良い子になろうとしているのかな。
俺の隣でモフモフに身を包んだコクリコの琥珀色の瞳は、真面目そのもの。
別人かと思ってしまうね。
「で、どうですゲッコーさん」
ま、真面目であってもコクリコはコクリコなのでスルーして、俺の前で運転しているゲッコーさんに話しかければ、
「JLTV最高!」
ご満悦だった。
そんなことを聞いているわけではない……。
ある意味、一番不謹慎だよ。今後の事よりも運転を楽しんでいるんだから。
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