PHASE-555【ネトゲの粘着はある種ホラー】
「本当にごめんなさい」
色々と申し訳なかったし、不憫から謝罪をしてしまう。
「まあいい……。ゆっくりは出来た。我はこれより地に潜り長に協力し浄化を行う」
「直ぐに実行してもらってありがとう」
「それが我らの使命でもある。では勇者よ、残りの二龍の救出を頼むぞ」
落ち込んでいたけど、聖龍らしく凛とした言い方だった。
「それとこれを託そう。長も託したのならば、我もしないとな」
言えば、角の先端が欠け落ちる。
欠けた角は少しずつ形を変えていきながら俺の方へとゆっくりと落下してくる。
水をすくうように両手を出せば、その手に欠片が収まる。
手を見れば、乳白色の角の欠片は、曲玉にそっくりな形状をしていた。中央に紐を通せる穴もある。
「我が角の一部を与える。それを持っていれば、あらゆる毒の攻撃から身を防いでくれる」
「ありがとう」
「それだけではない。先端で地面を擦れば――」
「ゴーレム!?」
くい気味で叫んでしまった。
「うむ、そうだ。短時間だが召喚できる。盾代わりや障害物の破壊などに活用すればいいだろう」
「本当にありがとう!」
最高だぜ! プレイギア以外からの召喚を可能にするまでになるとはね。
まあ、俺の実力ってわけじゃないけど。
「では、励めよ勇者」
言えば厩の床へと体を沈めていき、俺たちの前から完全に去っていった地龍。
別れは簡素なものだった。本来ならこの地の権力者やリズベッド達が見送ることが相応しい存在なのに。
簡素な別れは、地味――じゃなく、生真面目な地龍らしい。
素晴らしいアイテムまでもらえた。
地龍の角の一欠片からなる曲玉。早速、革紐を手に入れて、中央の穴に通してから首にかける。
うむ、ファッション的にも悪くないと思う。ファッションセンスが微塵もない俺の感想だけど。
「良い物を授かったな」
「これで更に俺は強くなる。もちろん物の力に頼って強くなるって事じゃないから」
後半の発言を加えておかないと、自分の力で強くなれとベルに怒られそうだからな。その前に言っておくのが吉だ。
テッテレー♪
おっと、強くなる発言からのレベルアップ音。
やはり一段落するとレベルアップの通知が来るみたいだな。
――どれどれとディスプレイの数値を見れば、
「ほほう」
現在のレベル41から大幅アップの52だ。
11もアップした。
80を超えるレベルのデスベアラーと渡り合い、そして勝利。
地龍を救い出すために新たな技である烈火を習得。
俺の評価から算出されるというレベル表記としては、今回はかなりの評価を得たと考えていいだろう。
欲を言えば、強敵相手に活躍したんだからもっと上がってもいいとは思うんだけどな。
正直レベルアップ音が聞こえた時、内心では60を超えていた。
苦言をセラに送ったところでレベルが上がる訳じゃないし……な…………。
――……地龍を忘れていたのもあれだが、そういえば最近、あの死神とやりとりをしてないな……。
あいつ結構かまってちゃんだし、なんかヤンデレ系の死神でもある。
コンスタントに連絡を入れないと、いずれ凄い粘着したメールが来るんじゃないだろうか。
――……俺はそっとプレイギアをポーチにしまう。
結局メールを送ったとしても、そこから粘着してきそうな気がするからだ。
相手は美人の死神だってのに、この思考。
童貞のくせに達観した対応が出来るのは素晴らしい。
ボイスチャット入れてる女性がセッション内に現れて、舞い上がって
決して、鬱陶しいというのを通り越して、セラとのやり取りが怖いからって事ではない。
「よし! 早いところ次の目的地を目指そうぜ!」
「やる気は十分でいい事だが、ゆっくりと過ごすことも大事だ。そもそもお前が言ったことだ」
だな! ベルはガルム氏の子供たちと戯れたいだけだろうけど。
「ところでトール。マンティコアに名前はつけないのか?」
確かにマンティコアとばかり呼ぶのはよくないな。
ふむん――――。
「じゃあ――チコで」
「チコか。愛らしいこの子にぴったりの名だな」
単純に実家で飼ってる長毛の雑種猫からきているんだけども。それよりも、愛らしいとはいったい。
象くらいある大型の猫科の合成獣を愛らしいと発言する強者の思考は、俺には理解できないよ。
「チコ」
「に゛ぁぁぁぁぁぁぁあ」
だみ声の返事がしっかりと返ってくるあたり、俺とベルの会話をちゃんと聞いていたようだな。
甘えてくる時は甘えてくるけど、寝たい時は体を起こさないで返事をする様は、本当に猫みたいだな。
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