PHASE-557【登山をしよう】
「だがコクリコ。交渉が決裂すればどうする」
テンション高めな運転席のゲッコーさんとは違い、助手席からベルが肩越しに見つつ、大賢者だと思っているコクリコに問うてみれば、
「もちろん我がワンドの貴石が、巨悪に対して裁きの輝きを放つでしょう」
「相手は魔道師としては最高位なのだろう。勝てるのか?」
普段だったら俺に対して厳しめの声音なんだけども、同じ魔道師系との戦いを想定した時、勝算が有るのかとのベルの質問に、コクリコは途端に弱気になっている。
ライトニングスネークを習得しているとはいえ、中位魔法でしかない。
対してネクロマンサーは最高位の一つだ。
死霊を使役するだけでなく、使役できるだけの実力がないと死霊に殺されてしまうとリズベッドは教えてくれた。
使役し忠誠を誓わせるだけの力を持っているとなると、上位魔法クラスを普段使いするレベルでもあるとの事だった。
初期魔法にいたっても、使用者が最高位の立場となれば、中位や上位クラスになるそうで、俺たちが会いに行くアルトラリッチと称されるリン・クライツレンは、まさにそれにカテゴライズされる存在だ。
コクリコでは完全に力不足。
強気に対抗するのもいいだろうが、相手をちゃんとした実力で捉えて、かつ自分と比較。
格上であるならそれを素直に認めて対応しなければ、自分を見失った者には勝機は訪れないと、厳しめにコクリコへと述べる。
ベルに反論できずにコクリコはうつむいてしまった。
これから相対する人物はそれだけの存在なのだろうし、いつも考えもなしに突っ込んでいく悪癖を正すための厳しい発言でもあったんだろうな。
うん……。
――……車内になんとも言えないしじまが訪れてしまったな……。
うつむいてはいるけど落ち込んでいるというよりは、唇を尖らせているみたいだから拗ねているみたいだ。
「正鵠を射ている発言だからな。拗ねるのはいいけど、頭には入れておけよ」
しじまをやぶるように俺が伝えれば、
「分かっていますよ」
と、やはり拗ねているようで目線も合わせないで返してきた。
拗ねてはいるけど返事は出来るからそこは評価したいよな。返事もしないで不貞腐れるヤツよりよっぽど大人だ。
コクリコが冷静になるには――、
「ちょうどいい気候じゃないか――――」
降車して直ぐの発言。
涼しいな。
流石は火龍装備だ。雪山から吹き下ろしてくる風は、本来、体を芯から冷やしてくる冷気なんだろうが、俺にとっては心地よい程度。
高原に吹く、涼を届けてくれる風みたいなもんだ。
現在、俺たちが立つのはアケミネルス山の麓。見上げれば、天を突き刺そうという気概が伝わってくる尖峰の標高は1563メートル。
瘴気の進行を防ぎ、バランド地方の繁栄を維持させるカンクトス山脈の高い場所は四千メートル級って事だから、比べれば低くもある。
でも、この辺り一帯を見渡すには十分な高さだ。万年雪による雪化粧の山に巨大な山城を立てるってのも、中々に伊達で酔狂だな。
砦サイズでよかったと思えるんだけどな。
この地が昔から資金と資源にゆとりのあるという証拠を具現化させている城なのかもしれない。
「さてどうする?」
俺同様に普段通りの格好に近いゲッコーさん。
スニーキングスーツには外気に対して優れた遮断性を持ち、保温性も高く、南極なんかでもこれだけで行動できるという素晴らしきゲーム設定により作られたスーツ。
頭と耳を守るウシャンカと、雪よけの為にキングエルクの毛皮から出来たマントは羽織っているけど。
防寒着が必要ないってのは、動きにおいては有利になる。
ベル、コクリコ、シャルナは侯爵が準備してくれたウシャンカとコート、ブーツを装備。
降車してから手袋も装着。
――――ほほう。
「よいですな」
背後の雪化粧からなる山に、白を中心とした防寒着を纏った姿は美しいの一言。
ベルの白銀に輝く髪とウシャンカ。
コクリコのラゼットブラウンの髪とウシャンカ。
シャルナの透き通るような金髪とウシャンカ。
三者三様の美しさと愛らしさがある。
ゲレンデマジックなるものがあるそうだが、まだまだ雪山本番でもないというのにこの美しさ。
やはり三人ともスペックが高い。
十分に美を堪能させてもらったところで、
「ここからは歩きですかね」
「だろうな。巨城があるわりに山道は狭いからな」
ゲッコーさんと二人して山道に目を向けて、中腹付近までを眺める。
馬一頭の騎兵なら問題ないけど、馬車だと登るのが難しいといった隘路。
守りには強そうだけども、味方側が登るとなると鈍足になるのもネックだし、物資を運び入れるのも難しい。
こんな寒冷地だと穀物も育ちにくそうだし、明らかに麓からの物資供給を要する城だ。
こういった悪条件も、この城が不必要になった理由に含まれるのかもな。
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