PHASE-558【雪山での登山、天候悪化時は避難しよう】

「お! ゲッコーさん。SG552ですね」


「ああ、寒冷地で山岳となればコイツがいいだろう」

 SIG SG552。SG550のコンパクトバージョン。

 SG550に比べて全長が短くて軽く、取り回しがいい。

 スイスで製造されているだけあって、寒さに強く、SIGブランドだから、命中精度も高くて優等生のアサルトライフルだ。

 腕にスリングを通して、担うだけでも格好いいのがゲッコーさんである。

 若干キングエルクのマントが原因で、またぎのようにも見えてしまうけどね。


 JLTVから道具を降ろして確認を済ませ、皆の雑嚢に仕舞っていく。

 俺の雑嚢にはモロトフに、ポーション。侯爵から提供されたハイポーションとアンチドーテが各三個ずつだ。

 シャルナが手一杯の時でも、各自で回復出来るのは有りがたい。

 俺も以前からのポーションを大事に持っているけど、ポーションは傷の治癒と疲労を回復させる事が出来るが、即効性がなくて、癒やすのに五分から十分を要するってことだったよな。

 比べてハイポーションは回復量はポーションと変わらないけど、使用したら即、効果が出る優れもの。

 それ以上に優れたアンチドーテは、解毒効果とポーションクラスの回復が即座に発動されるから、ハイポーションよりも優秀。

 いいアイテムを貰った。

 まあ俺には地龍から貰った曲玉があるから毒の心配はないけど。

 もしアンチドーテが残る事があったなら、王都に持って帰ってギルドメンバーの報酬品にでもしよう。

 バランド地方以上に、王都では珍重されるアイテムだからな。


 他にも保存食には干し肉に、堅パンハードタックもある。

 軽量な俺とゲッコーさんが皆の分の食糧や、雪山で使用するアイテムが入った背嚢を背負う担当だ。

 ゲッコーさんがいれば食糧の問題はないんだけど、それが甘えにもなるからな。可能な限りは現地の物を使用していきたい。


「行こうか」

 頼りになる伝説の兵士が先頭を担当し、その後ろが俺。

 普段ならベルなんだけど、今回は格好が動きづらいから俺が担当する。

 ベルならモコモコした格好でも問題なく動けるだろうけど、動きやすい装備が先頭を担当するのが一番だ。

 俺の後ろにベル、シャルナ。最後尾にコクリコと続く。

 ベストな隊列だと思う。




「――――流石に標高が高くなれば冷たさも増してきますね」

 と、最後尾からの声。拗ねていたみたいだけど、声音からして普通に戻ってる。

 切り替えが出来るのは、素晴らしいを通り越して羨ましいね。

 後を引きまくる俺には無いものだからな。

 切り替えの出来る最後尾を肩越しに見れば、濃い白息を吐き出している。

 前を向けば、背中しか見えないけど、ゲッコーさんからも煙草を吸っているのかとばかりに白息が出ている。

 俺だけが火龍装備の恩恵で出ることがない。

 なんか疎外感。


「マフラーで口元を隠しておけ」

 ネックウォーマーで口を隠すゲッコーさんに続いて、皆がマフラーで口元を隠す。

 マスクの女性は美人に見えるというが、美人がやれば更にいいもんだ。


「トールはいいのか」


「まったくもって問題ない」

 流石のベルも冷気を体の中に取り込むのは、体力の消費に繋がるみたいだな。

 本来の力があれば、冷気も遮断する炎を体に纏うんだろうけど。


 ――――徐々に灰色の世界に白いまだら模様が目立ってくる。

 この辺はまだ雪が積もっても、陽射しでとかされているようだけど、本日は曇天模様って事もあってか山を登っていけば、まだら模様の範囲が大きくなっていき、徐々に雪のほうが目立つ地面へと変わってくる。

 静まりかえった世界。

 俺たちの息づかいと足音、荷物の擦れる音だけがしっかりと聞こえてくる世界は、まるで俺たち以外の時が止まっているかのようだった。


「そろそろ履いとくか」

 ゲッコーさんが中腰になり銃とは別に、背負った背嚢から木製の輪っかを取り出す。


「かんじきですね」


「スノーシューともいう」

 侯爵からもらった雪山専用の装備の一つだ。

 流石に火龍装備である俺でも足元はそうはいかない。

 雪がつもった地点を歩くとなると、足が沈みにくくなるかんじきは必須になってくる。

 大昔からの知恵であるかんじき。

 ブーツとかんじきを結んで固定させる。

 輪っかの部分が接地面積を増やし、体重を分散させることで、雪の中に足がめり込むのを防いでくれる。

 深くめり込まないぶん足を上げなくていいから、体力の消耗を軽減させてくれる素敵なアイテムだ。

 かんじきは初めての経験だけど、中々に歩くのが楽しくなってくる。


「ん!」


「どうしたシャルナ」

 かんじきを履いてしばらく進んだところで、シャルナの笹状の耳がピクピクと上下する。


「風の感じが変わった。ざわついている」

 すごくエルフらしい発言だった。


「確かにな。雲も北側から濃いのがこちらに向かって来ている。周囲で身を隠せそうな場所を探しながら歩こう」

 要は吹雪になるって事なんだろうな。


 ――――ほほう、中々どうして。


「吹雪いてますね。前が見えませんよ。これがホワイトアウトってやつですね」


「そうだな。あんまり風の当たるところには行くなよ。吹き飛ばされて滑落なんてしゃれにならんからな」

 余裕あるやり取りも、現在いる場所のおかげ。

 吹雪を遮ってくれる洞窟を見つけられたのがよかった。

 ゲッコーさん曰く、天然の洞窟ではなく、人の手によって穿たれたものだそうだ。

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