PHASE-1063【二刀流は強者の証】

 猿叫はおいといて、


「ギムロン。我が弟子サルタナの得物のグリップエンド部分に穴を開けてあげて。でもって丈夫な紐で輪っかを作って」


「ほいほい」


「師匠?」


「かの大剣豪である宮本武蔵もやってたんだよ」

 紐を手首に通せば、柄が手から滑り落ちても得物を落とすことを回避できると教えれば、感動してくれるサルタナ。


「そのくらいで感動する必要はないでしょう。誰でも考えつくことです」

 俺に弟子が出来たからって嫉妬をぶつけないで欲しいですね~。


「それに誰ですミヤモトムサシって? 聞いたこともないですよそんな剣豪。もしかしてトールお得意の妄想の世界の人物ですか? 妄想するの好きですもんね。頭の中が桃色の時なんて特に」

 

 ――……。


「なんだァ? てめェ……」

 亨キレた! って、させてえのかコイツ。

 ていうかその流れだとキレさせてんのは武蔵だけどな。

 ここで言い返したところで、また妄想とかって切り返してくるだろうから言わないでおこう。


「その方はそんなにも凄いのですか?」

 コクリコと違ってサルタナは興味津々。

 剣道をやっていた身としては、少なからず影響を受けている人物でもある。

 なので俺に影響を与えた人物と説明。


 二天一流の流祖であることを教えてあげる。


 二刀流ってのは、漫画、ゲーム、ラノベなんかで強キャラが使用するから憧れたもんだ。

 その二刀流キャラ達の元ネタになった人物と言っても過言ではないのが宮本武蔵だと俺は思っている。


「といっても二刀流なんて難しいからな。まずは基礎をしっかりとしような」


「はい!」

 ――ピリアを発動すれば俺は片手でも常人の両手持ち以上の膂力を得ることができるから、二刀はやろうと思えばやれるな。

 

「ふむ」

 二刀流か。

 ピリアもだが、そもそも残火自体が木刀よりも軽い刀だからな。

 二刀持ちってのもありかもしれないな。

 公爵家の家宝であるウーヴリールを持ってくれば良かったかな。

 魔王軍によって世界が終わるかどうかの時に、家宝を理由に使わずにいるのは馬鹿の考え方だよな。

 でもどうせなら剣より刀がいい。残火と形を合わせたい。

 膂力もあるし、鉱物などの素材しだいでは軽くて頑丈な刀剣を作れるのがこの世界。

 

 刀と小刀ではなく、刀と刀による二刀流。

 いいね。残火に匹敵するような刀剣は存在しないだろうけど、サポートしてくれそうな刀をいずれは手に入れたいな。

 ギムロンもいるし、ワック・ワックさんに頼むのもいいだろう。

 

 二刀流という浪漫。サルタナにはまだ無理でも、俺なら使いこなせる――と思う。

 使いこなせるようになるためには、俺も弟子にばかり言ってないで特訓しないとな。


 ――よし!


「なんじゃい?」

 近場に転がっている棒切れを手頃な長さに加工。

 ――で、二本ゲット。

 それを諸手で握り、丸太の上で胡座をかいているギムロン。そして――コクリコの方向へと先端を向ける。


「来るヨロシ」


「ほう。いい度胸じゃないですか」


「ほうじゃの」

 どっこいせと腰を下ろしていた丸太から立ち上がるギムロンと、コクリコが俺と相対する。

 サルタナは察したようで、俺達から距離を取って観戦準備といったところ。


「マナ使用は?」

 ギムロンの質問に、


「なし。地力だけでやろうぜ」


「ハッハ――! なんと愚かな。地力だけの勝負なら間違いなくこちらの勝ちですよ。弟子の前で恥をかかせ、弟子を貴男の元から去らせてあげましょう。そして我が弟子として迎え入れてあげましょう」

 コイツ……。どうしても弟子が欲しいようだな……。


「コクリコ女史。大言壮語はこの勇者を倒し――!? ひょう!」

 鎌を彷彿させるような弧を描く上段後ろ回し蹴り。

 背中を仰け反らせてかろうじて回避。

 鼻頭に恐ろしい風が届いた。


「チィ!」

 躱されたことで舌打ちをしてくる。

 そうだった。そうだったな……。

 これがコクリコだよ。

 開始の合図なんて関係ない。

 こっちが棒切れの先端を向けた時点で、あいつの中では開始の合図なんだ。

 

 卑怯とは言うまい。

 常在戦場という考えの下にて活動する冒険者としては、お手本にすべき行動だとも言える。

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