PHASE-1064【彼岸で頑張れ】
「でもやっぱ卑怯とは言いたくなる」
不意打ちくさい始まり方に愚痴を零す俺もまだまだだな。
「せいや!」
愚痴を零したところでコクリコは止まらない。
足が伸びるような錯覚を見せてくるし、何より鋭い蹴りだ。
とても小柄な体の少女が繰り出す蹴撃とは思えない。
上段後ろ回し蹴りから上段回し蹴りによるしつこい顔面狙いのコンボ。
背を反らせすぎて背骨がコキコキとなりやがる。
「よいしょ!」
体を反らせたところに頭上からのギムロンの一振り。
小柄で樽型の体。普段は移動する度に疲れたと言うのに、こと戦闘態勢となれば体型を無視した敏捷な動きだよね。
ギムロンの一撃には体を捻りながら横っ飛びで対応。
地面を転がりながら何とか回避。
俺が先ほどまで立っていた場所からとんでもなく鈍い音が聞こえる。
素早く立ち上がり、
「ちょっと待て!」
「待ちませんよ」
「なんか始まっちまったからの」
違うんだよギムロン!
始まるのはいいけども……、
「なんだその丸太は!」
ギムロンが両手に持つのは、巌のような拳に似つかわしいぶっといモノ。
電柱までの太さとはいかなくても十分に太さのある丸太は、ギムロンが先ほどまで腰を下ろしていたモノだった。
「斧を使うのはよくないからの。会頭が愛刀の長さの棒切れを使うから、ワシも得物に近いのを選んだ」
「柄の太さが違いすぎるだろ!」
「言うても手頃なのがこれしかなかったからの」
いや……。
「打撃力だけなら斧以上だろうが!」
「大丈夫。会頭は躱せるじゃろ」
「その通り! なんといっても勇者ですから――ね!」
こっちがギムロンと話していてもお構いなしに側面からの攻撃をしっかりと仕掛けてくるコクリコの手には、自慢のワンドではなく――、
「ずるいぞ!」
「このくらい対応してもらわないと。なんといっても勇者なんですから」
同じ発言をするな。
勇者だからという理由で好き勝手されたらたまったもんじゃない。
ミスリルフライパンは卑怯だ! これは卑怯だ!
「そもそもこれは私にとっても手加減というもの。このロードウィザードであるコクリコ・シュレンテッドが白兵戦で相手をしているのですからね」
――…………。
「ふっざけんなよ! お前にとっては得手中の得手じゃねえか!」
「何を言います! 私は魔法の天才です」
「魔法より接近戦の方が脅威だわ!」
「そっちばっか見てていいのかい」
「にゅん!?」
伝説の四番バッターみたいな豪快なフルスイングが俺の背後から迫る。
「死ぬよね!」
ドワーフの剛力から繰り出される丸太によるフルスイングとか冗談抜きで発言どおり死んでしまう。
地面にキスをする勢いで伏臥の姿勢で倒れ込み、かろうじて回避。
上方を凶悪な風切り音が通過。
どっと汗が噴き出すが、拭う余裕もない。
素早く立ち上がるとろこに今度は上段からの振り下ろしだからな。
――ここでも鈍い音が響き、振動が足裏から全身に伝わってくる……。
「吸血鬼だけに振るう勢いだな!」
「よう分からんが、コイツならヴァンパイアも十分倒せるわな」
倒せるようなモノを俺に全力で振り下ろさないでもらいたい。
「逃がしませんよ」
「!?」
ギムロンが振り下ろした丸太を踏み台代わりとばかりに、コクリコが両手をついて体を一回転。
全身をバネへと変えての勢いのある動き。
コクリコだからこその軽業。しなりのある体は一本の矢のよう。
俺へと迫ってくる両足による攻撃はドロップ――、
「いや! これは超裂破だぎゅん!?」
見事に俺の胸部分に直撃。
ド派手に吹き飛ばされてしまい、ゴロゴロと地面を転がされる。
軽業の如き動きであっても威力はしっかりと伝わってくる。
ピリア、ネイコスの両マナを使用していないけども、火龍装備はしっかりと纏っている。
――なのにこの衝撃。
コクリコのヤツ。成長しているのは分かっていたけども、直接やりあって攻撃を受ければその成長も分かるというもの。
「「フーレイ!」」
直撃に喜びの声を二人が上げる。
「にゃろ~」
普段は一緒に行動しない二人だってのに、なんだよそのインスタントでありながら完成されている連携は……。
流石は冒険者と褒めておこう。
兵士のような陣形を主とした連携とは違い、臨機応変による変幻自在の連携は正に冒険者然としている。
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