PHASE-31【粘土遊びじゃないよ】

「いいですね。こんな便利な代物があるとは。しーほー。粘土のように形を変えられ、爆発も大きい。いや~私の国に持って帰りたいですよ。しーほー」


「C-4な……。だが、火薬の歴史はお宅の国が発祥だろ? たしか真元妙道要路とかいうのに書かれていたはずだが。――あ、あれは唐の時代か」


「唐? 私の生きた後の時代ですかな? 後の時代とはいえ、誇らしいですな」

 大戦おおいくさの下準備ということで、ゲッコーさんと先生は二人して王都から出ると、C-4をこねこねしながら、そこらに転がってる石に似せて、いくつも設置していく。

 俺とベルはそれを眺めているポジション。

 いい大人が童心に返って、泥団子を作っているようだ。

 まあ、かくいう俺は、泥団子名人と小学校の頃は言われていたけどね――――。


「よく動きました。空腹ですよ」


「じゃあレーションでも」


「しーほーもですが、妖術ですな」

 どこからともなく手に現れる代物に、先生はわくわくしている。探究心が強いようだ。

 手渡されるそれは、栄養の高いエナジーバー。砦攻略時の固形食とはまたちがう。大きさはテレビのリモコンくらいある大きい物だ。

 チョコにフルーツ、チーズにバニラと味も選べるすごいやつ!

 高いカロリーを一本で摂取できるすごいやつ!!

 移動しつつ食べられる、FSR(ファースト・ストライク・レーション)ってやつだ。


「――――あっま!」

 流石は高カロリーだ。俺としては食べやすくて美味しい、企業とコラボしていた固形食の方がよかった。

 これ一つで、一日分のカロリーが摂取できるすごいやつ!!!!

 しかも無尽蔵に出せるってのが凄いよね。神の子みたいだよ。


「あ! これを皆に分ければ、王都の食糧難が解決なんじゃ」


「駄目ですよ」


「「なぜです?」」

 俺の素晴らしき考えに、かぶせるくらいの速度で否定してくる先生。

 ベルは俺と同じ考えだったのか、声がシンクロ。


「確かにこの都は食糧難ですが、現状は事足りています。そう考えると、ここの王は民の分の備蓄もしていたようですから、一概に暗君とは評価を下せませんね。と、話が逸れましたが、人々には、まず動かなければいけないという意思を植え付けなければなりません。戦う意思に、生産する意思。ここで、げっこう殿の妖術にてこの兵糧を与えれば、依存し、怠惰に陥ってしまいます」

 だから、与えるな――か。

 考えもなしに、軽い気持ちで施すのはよくないんだろうな。

 まずは農耕を行おうとする気概を住人に与える事が大事だし、その自信をつけさせるために、俺たちが圧倒的な勝利を得る。

 今は、その為の戦いの下準備を行っているわけだし。

 でも、申し訳ないと思っているのも本心なので、四人で隠れるようにパクパクといただく。王都の外だから見る人はいないだろうけども、罪悪感ってのが四人ともあったんだろうな……。

 喉の渇き訴えてくる甘いチョコ味を急いで食べるのは酷だった――――。

 

「ふむふむ。こんなものでいいでしょう」

 薄暮に支配される空。

 疲れた……。

 レーションを食した後は、俺とベルも手伝って、四人でC-4を設置し、王都にもどる。

 適当に設置したようだけど、先生は計画的に設置できたと笑んでいた。

 侵攻が激しく、戦いの爪痕を残す西門から約百メートル離れた場所に、石に似せての設置や、幅の広いわだちの部分には、穴を掘って隠すように埋める。

 単純ながら重労働だった……。

 かなりの数だ。砦での爆発を考えると、凄いことになりそうだな。

 基本は一キロくらいを設置、所々に十キロくらい設置してた。

 設置時にゲッコーさんが言うには、一キロくらいなら、壁に穴が開けられる程度とのことだ。

 そう考えると、砦にはいくつ仕掛けたんだろうね……。


「で、次は何をするんです?」

 先生は大きな戦いとか言ってたからな。更なる準備をするんだろう。

 今夜は徹夜か? 徹夜は自堕落な生活で慣れているぞ。


「寝ましょう。続きは明日やりましょう。明日」

 ――……マイペースな方だ。


「ふぅ……」

 珍しく、息が重いベル。嘆息するほど疲れたのだろうか。


「どうした?」

 今日もあんまり会話できなかったから、ここぞと聞いてみる。


「別に」

 ――……すげない返事だ。

 でも、別にって表情じゃないんだよね。明らかになにかある。

 もしかして炎を使用すると、体に副作用でもあるのだろうか?


「本当に大丈夫なのか?」


「だから何がだ?」


「きつそうだから」


「疲れてはいない。ここに来てからというもの、ろくに入浴できていないのが嫌なのだ」

 あ、ああ。そういう事か。風呂か――――。けしからん体だよな。


「なめるように見るな! 汚らわしい!」


「だいっ!」

 スパーンと腿に綺麗に入ったベルのローキック。その一撃でこっちは悶絶ですよ。

 屈む俺を余所に、ツカツカと一人で帰って行くベル。

 俺と同じ目線に合わせる為に、先生が蹲踞の姿勢になると、


「女性はやはり入浴出来ないと嫌なのでしょうね。都全体の衛生面を考えますと、大きな入浴場は必要になるでしょうね。浴場建設も再建に入れておきましょう」

 全くもって頼りになる先生である。テルマエまで造ろうとするとは。

 でもその前に、出来ればおんぶしていただきたい。

 ねえ、ベルだけでなく、なんで二人も俺を置いて先に行くの? ガチで動けないくらいに痛いんですけど……。

 ねえ………………。

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