PHASE-138【強がりばかり】
ベルの炎によって守られているけど、激しい音と共に、岩や地面を抉る光景は恐怖しかない。
明らかに現状で挑んではいけない相手。
ベルが本調子になるまで、ここは逃げた方が得策じゃないだろうか。
「また何か仕掛けようとしているぞ」
防いでくれるベルが、火龍を見ろと言う。
見れば、レーザーの雨を降らしながら、体を立たせた。
翼を広げ立つ姿。
巨大な存在が、更に大きく見える。
尻尾を地面に叩きつつ、メタリックな鱗が新たに輝き始める。
「まだ何かある。ベル、防げないんじゃないか?」
ここは諦めて撤退をと促そうとしたが、俺の言い方が悪かった。
「馬鹿にするなよ」
防げないとか言うんじゃなかった……。
ベルの矜持に触れたようで、赤い髪を揺らめかせる。
「グゥゥゥゥゥ――――」
赤い鱗が、夕焼けのように染まり、同様に火龍の足元の岩が赤く染まっていく。
「更に温度が上がってきてるな」
少しでも相手の動きを見定めようと、ゲッコーさんは凝視しながら口を開く。
この間にもレーザーの雨が降り注ぎ、いつ終わるのかと不安に駆られる。
「トール、今までのは序の口だったようだぞ」
火龍の体からぼたぼたと汗のような雫が垂れれば、赤く染まった岩がドロドロに溶け始めた。
マレンティを脅した時のベルの炎を思い出す。
「溶岩だ……」
ベルの時以上の溶岩。
現状の光景だけでも、圧倒的な熱を操ることが出来るというのが容易に理解できる、火龍の力。
「まさに神の領域だ」
これから何を仕掛けてくるかまだ分からないけど、次の一撃をベルは本当に受けて立つつもりなんだろうか。
「来る!」
頬を伝う汗。
懸命に防いでくれるベルに艶っぽさを感じてしまうダメな俺。
こんな状況で馬鹿な考えが浮かぶからな。
死ぬ前と、本能が伝えてるんだろうか?
だから、種を残せとばかりに、ベルに欲情しろということか?
「ハハ!」
「なんだ急に? 熱さでおかしくなったか」
「おう、おかしくなったよ」
ベルに返す俺。
欲情しろって、常にベルには欲情してますよ。俺は。
なんたって童貞だからな。
アホらしい発想が浮かぶのは、なんだかんだでベルを信じてる証拠だな。
「ガァァァァァァ――――」
ブレスと同じ動作。
違うのは四足が二足になって、開かれる口の前に、五重からなる魔法陣が顕現した事だ。
胸、腹が大きく膨らんで、体からは光を放ち、レーザーの雨に変え続ける。
こちらに反撃の隙どころか、動きすら与えてくれない無慈悲な攻撃だ。
――――俺たちの立ち位置なんて考えてくれることもなく、ブレスが吐き出される。
吐き出した炎の塊が、魔法陣を通過していく。
五重の円形魔法陣は、口元から離れるにつれ、円の直径が短くなっている。
魔法陣を通過すれば、炎も集束されていく。
五つ目を通過する時は、炎は帯状のレーザーに変わった。
降り注ぐレーザーよりも太いレーザー。
「ベル!」
「まかせろ」
おう! 任せるさ。
ここまでやってもらって逃げようなんて言えねえ。
出来る事は、恐怖なんて感じてないとばかりに、ベルの横に立つだけだ。
ジュン――――、と、ベルの炎の壁に、ぶっといレーザーが着弾。
ジュンから始まって、ジュュュュュ――――と、炎が炎を焼く音が耳朶に届いてくる。
「強がって」
俺の立つ姿に笑みを見せてくる。
「ベルも十分に強がってるよ」
「年長者がここで遅れるのはよくないよな」
ゲッコーさんも俺たちの横に並ぶ。
本音は逃げ出したいし、一人だったら間違いなくちびってる。
「なかなか、どうして……」
強気な姿は崩さないが、歯を食いしばり耐えるベルの姿。
そして――――、徐々にだが、ベルの炎が、火龍の炎に押され始める。
まるで、炎が炎を侵食するかようのな光景。
「壁が無くなれば、一瞬で消滅するわけじゃない。ひたすらにレーザーを躱しながら、華麗に戦うだけの簡単な動作をするだけさ」
「まったくだ」
俺の強がりにゲッコーさんが頷いてくれる。
――――最高だな。
最高の強がりだ。
「火龍もだが、二人とも、私をなめないでもらいたい。あの攻撃が、この壁を突破するなど不可能だ!」
俺たち以上に、最高の強がりを見せてくれるベル。
「「おわ!?」」
ベルの発する気概に、二人で声を合わせる。
合っていないのは、ゲッコーさんはよろけるだけ。
俺は尻餅だ。
ここに来てベルの炎が青に変わった。
クラーケンの時と同様の炎だ。
髪の毛が赤から青に変わる。
髪だけじゃない、眉も長い睫毛も青色だ。
青い炎と変わった障壁は、火龍のぶっといレーザーを押し返す程の力だ――――。
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