PHASE-137【光の雨】
とはいえ、俺が出来る事は刀を振る事と、銃を撃つ事だけ。
バレットの弾丸を弾く時点で、腰に携帯するマテバは豆鉄砲レベルだろうから、タゲ取りの役目も出来ない。
魔法が封じられた刀剣とかならワンチャン有るだろうが、俺のはよく切れる業物。
ファンタジーの世界では、残念だが、下から数えた方が早い代物だ。
そう考えると、なんの役にも立てねえな……。
「やってみよう」
空元気に近いようだが、ベルが炎を纏い放つ。
炎が火龍を呑み込む。
全長が二十メートルはあるだろう火龍の全体を呑み込む炎は圧巻だ。
「ガァァァァァァ――――」
「ちょっと!?」
翼を羽ばたかせれば、ベルの炎を吹き飛ばしてしまった。
吹き飛ばされる炎が俺たちに迫る。
「ほう」
感嘆の声を上げれば、炎はベルの元へと集束する。
「流石は火龍だな」
と、継ぐ。
気丈に見えるが、頬を伝う汗を俺は捉えていた。
ベルの力が通用しないとなると、攻略難易度は極端に上がるな……。
「くぅ……」
口から炎を吐き、翼を大きく動かし、長い尾を振れば、火龍自身が生み出した炎が渦を巻き、複数の炎の竜巻が一帯を生き物のように動き出す。
呑み込まれたら俺みたいなのは終わる。
動きが無いなら広い、だが動きが苛烈ならば狭すぎる広間の空間。
火龍がちょっと動けば、強靱な爪や牙は俺たちにすぐにでも届く。
「眼窩を狙うのは無しだよな」
少し離れた位置で、ゲッコーさんが俺に相談。
「もちろんダメですよ」
「だよな」
目を貫通して脳にバレットの弾丸が着弾すれば、命を奪ってしまう可能性がある。
未だゲッコーさんに狙いを定めている火龍の角をバレットで撃ち、挑発を続けてくれている。
「歯がゆいな、私は役に立てていない」
それ、俺の横で言うかね……。
ベルがそうなら、俺なんてミジンコみたいな存在ですよ。
不調とはいえ、自慢の炎で覆っても払いのけてくる火龍。
バレットを持ったゲッコーさんを優先するという事は、火龍にとってベルは、脅威では無いと認識されているのだろう。
不甲斐なさに加えて、相手にされていないことに矜持を汚されて、苛立っているようだ。
「――ん?」
火龍が動きを見せる。
ブレスの時は長い呼気と膨らむ胸で、攻撃方法が分かったが、今回は巨大な体を丸めるようにしている。
「何をするつもりだ? 分かるか」
ベルの問いに俺は考えを巡らせる。
一見、防御の構えにも見えるが、こちらは効果的な攻撃が出来ていない以上、防御なんてする必要はない。
明らかにこれはまずい状況だろう。
丸まるようになれば、プルプルと震え出す。
「二人ともさがって!」
全力で遮蔽物のある方向へと走り出す。
「なんだ?」
ゲッコーさんが合流。
三人で岩壁に守られた、くぼみに入る。
「長い時間、動かないのはデカいのを狙っている証拠ですよ」
MMOやRPGでは、こういう時は、詠唱していると考える。
長い詠唱ってのは大抵――――、
「大魔法……」
口にすれば、それが合図であったかのように、火龍の周囲にいくつもの魔法陣が現れる。
円形もあれば、五芒星に、六芒星や菱形。
各魔法陣の直径は、二メートルくらい。
人では読む事の出来ない神聖文字なのか、魔法陣にはそれらが刻まれ、回転している。
回転する魔法陣は火龍から離れていき、一定の所に留まれば、
「あちい!」
熱でろくに息も出来ないくらいに、広間が熱に支配される。
「火龍が――――」
あっけにとられるベルの声。
熱さに堪えて火龍を見れば、メタリックな鱗がさらに濃い色へと変化を遂げ、鱗と鱗の隙間からは蒸気が勢いよく吹き出る。
――――次には、
「グォォォォォォォ――――」
咆哮と共に体が赤く輝き放射。
魔法陣に向かって、光が迸る。
「こいつはまずい。ベル、すまん」
申し訳ないとばかりに弱い語気のゲッコーさん。
「いえ、二人とも後ろに」
言えば、ベルは三人を囲うように、ドーム状の炎の障壁を作り出す。
炎の中だが、不可視ではなく、ドーム外の光景は見る事が出来た。
魔法陣に触れる、朱色が混じる白色の光。
光は魔法陣に触れると反射し、幅広い帯状から拡散へと変わり、地面に勢いよく叩き付けられる。
「まるでリフレクタービットじゃないか……」
レーザーのような雨が、広間全体に降り注ぐ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます