PHASE-136【無理をするのが男の子】

「掩護しよう」

 とは言いますが、壁の近い場所でロケランを撃てば、バックブラストの衝撃を受けそうだな。


「こいつなら」

 それは!

 伏射姿勢で構える銃はバレットM82。

 セミオートタイプのアンチ・マテリアル・ライフル。

 

 射線を確保すれば――――、ズドン!

 大口径とは思えないスタイリッシュなズドンだ。

 音に鈍さはなく鋭い。

 

 対して火龍の頭部にある、鹿のように枝分かれした角に命中すれば、ガインと、鈍い音が広間に広がる。

 火龍の頭部が震える。


「うん」

 と、漏らせば、もう一発。

 今度は前脚の付け根を狙った。

 ガキンと、これまた鈍い音。今度は火龍は微動だにしない。


「あのメタリックな鱗に角、凄い強度だな」

 お手上げとばかりに肩をすくめるゲッコーさん。

 やべえな……。

 

 バレットなら少しは効果あると思ったんだけど。

 まあ、ヘイトを集めるってのでは効果はあったのかな。


「グルルル――」

 って、唸りながらこっち見てるし……。


「よし! 今のうちにベルを連れてこい」

 ゲッコーさん。バレットを担って走り出す。

 いったん消せばいいのに。


 生意気な武器を使うとばかりに、火龍の視線はゲッコーさんを追っていく。

 

 素晴らしきタゲ取り。

 

 なるほど、バレットをちらつかせる事で、ヘイトを集めるって手なのか。


「おい、ベル大丈夫か」


「問題ない……」

 明らかに問題あるような気がする。


「調子悪いよな。こんな状況だけど無理はするなよ」


「いらぬ心配だ」

 いやいや、強気だけども、明らかにおかしいって。


「もしかしてだけど、炎がうまく出せないのか?」

 ぴくんと体が震えた。

 どうやら出せないようだ。

 

 なんで出せない? 俺はゲームをやる前に死んでしまったから、ベルの不調の原因とかは分からない。

 もしかしたら、ゲーム内では、チートキャラのベルのウィークポイントとなる素因なのかもしれないな。

 だったら尚更だ。


「ちゃんと教えてくれ。じゃないと皆に累が及ぶぞ。俺にも言ってたよな。覚悟がない者といると、周囲が困るって。いま正に、その困った状況だと思うんだけど」

 こう言えば、口を閉ざす事は出来ないだろう。

 

 生真面目な性格だからな。


「――――クラーケンとの戦いだ」

 ややあって口を開いてくれた。

 この間にも、ゲッコーさんが一人で火龍の相手をしてくれている。

 

 クラーケンと発した時、俺はエロい状況を思い出してしまったが、それ以外では――、


「青い炎――か?」

 初めて見たベルの炎。

 

 問えば首肯が返ってくる。


「気が高ぶった時に、力のコントロールをする事なく炎を発してしまった」

 コントロール外の力となれば、オーバースペックの領域。

 過剰な炎は、ベルの体力を大いに消耗させるようで、コントロール外の後は、力をうまく発揮出来なくなるそうだ。

 

 クラーケンを倒した後、確かにそんな事を言っていたな。

 感情にまかせて使用すれば大きく消耗するって。

 

 イカ臭い発言ですっかり忘れていたとは、この重苦しい状況では絶対に口には出来ないけども。


 つまりは、ベルにはクールダウンが必要ということか。


 確かにあの青い炎は凄かった。

 巨大なクラーケンが瞬時に消え去ったからな。


「じゃあ、今は無理できないな」


「無理をしないといけない時だろ」

 中佐様は気丈である。

 

 つと立って、レイピアを構えるからな。

 格好いいんだけども、やはり顔色が冴えない。

 

 火龍の巨体が動けば、それだけで振動と風が生み出され、赤い髪と白いケープが靡く。

 気丈に立つ姿を目の前で見せられたら、臆する事なんて出来ないよな。


「じゃあ俺も、無理するか」


「ああ、して損は無い状況だぞ。相手はそれだけの存在だからな」

 美人が笑みを湛えながら無理するなら、俺も無理しないとな。

 だって俺、勇者だし。

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