PHASE-1374【蒼白】
「挑発と体調が釣り合ってないな!」
五メートルを超える巨体は、俺の阿呆な選択から繰り出した蹴りによって地面へと叩き付けられる。
「どうした? 弱っているから立つのも一苦労か? 手を貸してやろうか?」
継いで発せば、
「本当に――生意気だ!」
ようやく得物のハルバートを全力で振れるとばかりに、倒れた姿勢のまま横薙ぎ。
こっちの両足どころか、質量に物を言わせて全身をミンチにしてやろうという意気込みが伝わってくる轟音。
軽めの跳躍で轟音からなる斧刃を回避すれば、
「バーストフレア!」
間髪入れずにお得意の上位炸裂魔法を唱えてくる。
イグニースでそれを防ぐも、跳躍で宙に浮いた俺の体が魔法の衝撃で強制的に後方へと下がらされる。
そこを狙って、
「今だ!」
「おっと!」
頭部を叩く存在がいなくなったところで、その報復とばかりに俺へと金色の角を向けてくれば、即座に電撃を放ってくる。
「アクセル」
着地と同時に発動。
「ぬ!?」
自由になれば狙ってくるのは理解できていたからな。
皆を心配していたけど、俺だけを狙うように放ってくれるのは嬉しいかぎり。
「なので俺の代わりに受けてくれ」
ヤヤラッタの背後に回り込んでやる。
ヤヤラッタの眼前から迫る電撃だったけども、無理矢理に方向を変えると、壁へとぶつかる。
岩盤を絶やすく抉ってみせる。
「大した威力だよな」
「常時、上位魔法クラスの電撃を使用できるからな」
それは何とも鬱陶しいことで……。
単体攻撃も脅威だけど、それ以上に全体への攻撃を警戒してしまう。
連続して上位の雷系クラスをドカドカと放てるとなると、障壁魔法なんかを取得していないとかなり対処が難しい相手だからな。
よしんば習得していても、破壊してくるというのは俺達で立証されている。
展開したからといって安心は出来ない威力。
一般兵が対応するとなれば、大きな被害が出ること間違いなしの芋虫。
この異世界における戦略生物兵器ってところだな。
まあ――、
「俺達の仲間にするけどね」
「無理なことを言う」
振り向きつつのハルバート。
これに加えてパーティクルティンダーによる包囲攻撃。
「器用なことで」
「良い装備なことで」
無数の小さな火の玉には気にも留めず、目の前のハルバートだけを迎え撃つ。
回避の難しい全方位からの魔法だけども、一つ一つの威力は低い。
しかもこちらは火龍装備だしね。
炸裂するような事もない魔法なら問題なしと判断。
鞘に収まる残火を腰に佩かせ、無手になった右手でイグニースを発動。防御に展開せず、横薙ぎで迫る斧刃はマラ・ケニタルの鎬で受けつつ、身を低くして受け流す。
そのまま距離を詰めての――、
「烈火」
「がぁ!」
本日二度目の烈火を腹部にぶち込む。
防ぐ事に使用せず、攻撃使用で練ったイグニースの一撃は十分な威力。
「何度も地面を転がってくれるね。これだけの力量差があってもまだ俺に挑むつもりなのか?」
「当然だ!」
「おう!」
地面に掌を叩き付ければ、俺の足元から伸びてくるのはマッドバインド。
拘束を狙ってのものだろうが、何度も目にしている魔法だから対処は難しくない。
マラ・ケニタルで切り払うことで簡単に対応。
で――、
「そう来るよね!」
足止めを狙ってからの次の手立ては背後からの電撃。
放たれる前にアクセルで前方に移動して回避しつつ、先ほど同様ヤヤラッタへと迫る。
「エビルレイダーの攻撃も理解できてる」
「先読みによる回避は戦場で培ってきた経験によるものが大きいようだな。勇者」
「まあね。でもって――」
肩越しに背後を見れば、一定のところで生き物のように伸びて動く電撃がピタリととまり、それ以上は攻めてこない。
「敵味方識別が良すぎるのも問題だな」
「確かに……な!」
と、言い終えたところで振ってくるハルバートを躱してからのトラースキックで膝を蹴り、そのまま膝を踏み台にしてからの跳躍。
マラ・ケニタルによる斬り上げで頭部を狙う。
「ぐぬぅ!」
左手で握るマラ・ケニタルの柄から伝わってくる手応え。
大きなダメージではないけども、仰け反らせ、その勢いで背中から転倒。
「倒れてばかりだな」
「立ったままなら首を持っていかれるところだった……」
大きな呼気を一つ打ち、自分の首が無事だったことに安堵するヤヤラッタ。
「背中を反らせて、尚且つ首も反らせることで致命傷を避ける動きは見事だったよ」
「紙一重だったがな」
「でも――兜に隠されていた顔を見る事が出来た」
「我が兜をはじき飛ばすとはな……」
発言のタイミングに合わせるように、宙を舞っていた山羊をモチーフとした兜が地面へと転がる。
一瞥すれば、兜の前面部分にはマラ・ケニタルの一撃によって切れ目が入っていた。
通常の斬撃では決定打にはならなかったな。
ここでスクワッドリーパーを放つことが出来ていたなら、兜だけでなく頭部も切り刻んで俺の勝ちで終わっていた。
電撃がこれ以上接近してこないと思ってはいたけど、念を入れて背後に気を配った分、技の仕様に繋げることが出来なかった。
まあ、どんな顔かは気になっていたからな。拝めたので良しとしよう。
「山羊の兜の下は、中々に厳ついようで」
「結構、気にしているんだがな」
「迫力があるからいいんじゃないの。鹿っぽいフェイスだと想像してたんだけどな」
上にいた十体長のレッサーデーモンに似た風貌かと思っていたけど、出てきたのは白い肌の人型に近いものだった。
雪肌や白皙といったものではなく、蒼白という言葉がしっくりくる肌の色。
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