PHASE-1375【作法】
「厳ついけど肌の色で病弱に見えるな」
素顔を見ての率直な感想。
「心配は結構。体力を消費しているのは事実だが、健康ではある」
血の気の悪い白い肌。
禿頭なのか、そもそも髪とかない悪魔なのか。
ゴツゴツと岩のような顔。
白目はなく、眼窩に灯るのは黄色の点からなる瞳。
「なんか人型のスケルトンみたいだな」
「素顔を見られればそう言われる」
「ゴーレムとスケルトンの中間?」
「そうとも言われるな。だが、歴とした命を宿した悪魔だよ」
ゆらりと立ち上がり見下ろしてくる。
「ふぅ……」
漆黒からなる山羊の兜から見下ろされている方がよかったな。
血色の悪さは人間から見れば不気味さもあるし、岩のような顔に、ぽっかりと空いた眼窩の中にある点のような黄色い目で凝視されると怖かったりもする。
けど――、
「スケルトン達と普通に接しているからその辺は少しは慣れてきたな」
「アンデッドと一緒にされるのは不愉快なものだが、勇者がスケルトンと接しているというのは何とも面妖な話だな」
「一緒に行動してくれて活躍してくれた時もあるよ。現在も王都で大活躍してくれているし、今後の戦いでもそれ以上の活躍をしてくれるだろうね。頼りになる面々さ」
「アンデッドと共に歩む人間の勇者か――」
「変わってるだろう。でもそういった他者から見て変わったことをやっていかないと、新しい発想は生まれないからな」
「なるほど」
「だから悪魔を組み込んでも問題ないと思うんだけどね」
「いいのではないか。まあ――我はそこには含まれないがな」
「そうですかい」
怨敵だもんな。会話をすることが出来るし、お互いを認めるような立ち位置でもあるんだけどな。
敵味方としての立ち位置は不変ってわけだな。
「まったく、エビルレイダーも我ごと攻撃すればいいものを」
「心優しい芋虫でよかったよ。お宅の近くにいれば電撃を撃ってこないからな。取り巻き達に対しても同様の行動をするみたいだから、こっちサイドは本当にありがたい」
「絶望を与えたかったのだがな」
「敵味方識別があると、こういった狭いところだと真の力を発揮できないみたいで」
広範囲を攻撃できる戦略兵器のような存在だからな。至近がメインの戦法枠で扱うとなればオーバースペック。
「こちらとしては大助かりだけどな」
安全地帯である芋虫の頭部だけじゃなくても、立ち回り方を把握できていれば電撃の脅威には十分対応できる。
その為にはヤヤラッタと俺との距離が離れすぎないよう、常に接近戦を維持すればいい。
彼我の力量からして、接近戦を続けてもこっちが苦戦することはないしな。
なので――、
「こちらが有利の接近戦に付き合ってもらう!」
「強者なのは分かっているが、自らがそう思い続けていれば過信へと繋がるぞ」
「その辺は問題ないから。心得ているから足を掬われることはない」
スパルタの二人がいなくても、増上慢に支配される事はない。
「やれやれ……この勇者は、存外、隙というものがないようだな。力量差は分かっていたが、精神面も中々に優秀だ……」
「驕り高ぶることで隙となる。ってのは、俺にはないのだ!」
言い切ってからの斬撃で狙うのは太股部分。
そこへの一太刀は鞘から抜いた残火によるもの。
ブレイズを纏わせての逆袈裟で太股部分を守る鎧に切れ目が入れば、そこから鮮血があふれ出す。
「ええい!」
「そんな体勢の崩れた迎撃じゃな!」
力任せのハルバートによる上段からの振り下ろしで俺の再接近を許さないといったところなんだけど、残火の一太刀で深手を負っているのは手応えから分かる。
踏ん張りのきかない状態からの振り下ろしには鋭さがなく、簡単に避けることが出来る。
躱してから二の太刀となる斬撃は二刀によるもの。
「がぁ!?」
激痛による短い声。
青白い肌の表情が崩れ、口からも吐血。
腹部へと斬りつけた二刀によるダメージは致命的。
「ひ、ひらひらとっ!」
「おう!?」
左手を真っ直ぐに俺へと伸ばしてくる。
俺を掴もうという動作ではなく、掌の前で火球が顕現。
ヤヤラッタの火球となれば――、
「バーストフレア!」
気迫による発動は唾ではなく血を飛ばしてのもの。
零距離ともいえる位置からのバーストフレア。
「無茶苦茶だな」
イグニースを展開して防ぐも、炸裂の威力に後方へと下がらされる。
コクリコも零距離でポップフレアを使用したりもするけども、バーストフレアのような上位となれば――、
「かぁぁぁぁ……」
「当然、そうなるよな」
爆煙が晴れる頃にはヤヤラッタは両膝をついた姿。
今にも前のめりで倒れそうだけども、なんとか耐えているといったところ。
どう考えても戦える姿ではないな。
ヒールを使用したとしても、太股と腹部へのダメージは残火によるもの。
腹部にはマラ・ケニタルによる斬撃も入っているからそちらの斬撃は回復できたとしても、残火で受けた刀傷が回復困難なのは、森での会敵時で理解はしているだろう。
ただでさえ弱体化した状態からの深手だからな。
「進退窮まったな」
独白しつつも、油断はしてやらない。
――確実に倒すまでは。
「ミルモン」
「分かったよ」
名前を言うだけで理解してくれるミルモンは俺から離れる。
今のバーストフレアでは無事だったけども、手負いになって後先考えない攻撃を繰り出してきたら、小さな体だと無事では済まないからな。
安全圏である天井付近に移動してもらったところで、
「次で決着だな」
「まだ早い!」
倒れそうな状態であってもまだ戦う意思を見せてくるヤヤラッタの声には覇気がある。
声とは裏腹に腹部からはかなりの出血。
元々、青白い肌だから出血による蒼白ってのは判断はできないけど、瀕死一歩手前なのは見て取れる。
激痛に襲われ続けるのは苦しみでしかない。
楽にしてやるのも、戦いにおいての作法だよな……。
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