PHASE-1376【弱い存在】
慈悲の一太刀を――と、考えながら両手に持つ二振りの柄を強く握り、
「アクセ――」
「プロテクション」
「ん!?」
一太刀を見舞うために動こうとしたところで、俺の目の前に現れる障壁。
術者はヤヤラッタだった。
しかも三面の展開。
「これは……」
俯瞰から見ればコの字で俺を囲むプロテクション。
前と左右に展開された障壁を目にし、心の中で舌打ち。
「放て!」
「まずい!」
バーストフレアにより距離を取らされたところにプロテクションでの半包囲。
金色の輝きを肩越しに見つつ、イグニースとかろうじて発したところで、
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
全身を襲う強烈な衝撃。
拙速によるイグニースはわずかだけ防ぎはしたものの、直ぐさま消滅。
その様を目にする俺は背を反らして全身を硬直させる。というより、それ以外に何も出来ない。
血液が沸騰しているかのように、猛烈に体の内側から熱くなっていく。
――……これ……死ぬ……。
「兄ちゃん!?」
大気を劈く電撃の音の中で、かろうじてミルモンの声が聞こえる……。
「…………かぁ……」
熱くなっていた体内が沸騰手前で緩和していく。
電撃が止まったのがそれで分かった。
痺れからなのか、死にかけているからなのか、力が入りにくい。
入りにくいだけありがたくもある。
入らないのではなく、入りにくいだからな。なので後者の死にかけているではない。
自立できているし、腕を動かすことで体の可動も確認できた。
何よりも電撃を受けた後でも、自分の現状を把握するために思考を巡らせる事が出来ている時点で、まだ俺の体は大丈夫ってことだからな。
「兄ちゃん」
「おう……」
反応できるし、安全圏から俺のところまでやって来たミルモンの心配する表情も見えている。
取り巻き連中と戦っている面々からも心配の声が上がっているので、左手を挙げて無事を伝える。
ヒールとか聞こえてくるけど、反応がないのはヤヤラッタのプロテクションが干渉しているってことなのかな。
そういった事を考えるだけの余裕もある。
「どうしよう。次が来るよ!」
焦るミルモン。
「信じられんな……」
障壁を障害物として作り出したヤヤラッタの声は、俺が立っていることに驚きを隠せないでいる。
俺自身も驚いているからね。
咄嗟のイグニースで、少しでも威力を減衰させたのがよかった。
なによりも火龍装備。そして作り手のワックさんのお陰だ。
心底、感謝しかない。
「ミルモン……」
「なに! なんか打開策があるなら言って!」
「ざ、雑嚢からグレーター……取ってくれ……」
「分かったよ!」
ここでエリクシールって言えないところが貧乏性なところかな……。
選ばない理由は現状、会話も出来るし、体も動くという余裕もあるからだけど。
「はい!」
「ありがと」
手にした小瓶の栓を必至に抜きながら、ミルモンが俺の口まで小瓶を運んで飲ませてくれる。
シャルナが酒蔵で製作し、俺にくれた三本のグレーターポーション。
その内の一本をありがたくいただく。
――、
「オッケイ!」
こりゃ凄い!
即回復できるというのではハイポーションも可能だけども、回復効果が通常のポーションくらいしかないのがネック。
いくら動けて会話が出来るとはいえ、この状態からの回復となると、ハイポーションでは十全で動けるのは無理だっただろう。
だがグレーターはそれを可能にしてくれる。
この回復量。マジョリカの一撃で死にかけた時、シャルナとリンからアーチヒールを唱えてもらって難を逃れたが、その時の安心感に近いものがある。
なにわともあれ、またシャルナに救われたな。
「――よっし!」
その場で軽く跳躍。
体に問題ないのが分かったところで、周囲に目を向けることなく障壁を避けてヤヤラッタへと攻める。
俺の無事にパーティーの面々は安堵していると思うだけにし、一瞥もすることなく正面の相手だけを見据えて攻める。
留まり続けたら電撃だからな。
「やってくれたな!」
強烈な電撃のお礼にと、両膝立ちのヤヤラッタに向かって跳躍。
迎撃で尻尾が俺へと迫るが、それを掻い潜ってから蹴りを見舞う。
うめき声を上ながら巨体が倒れる。
「で、電撃を受けても立ち続け、且つグレーターポーションか……。羨ましい物を持っているな……」
仰臥の姿勢で話しかけてくるヤヤラッタ。
「俺は仲間に恵まれているからな。この場だけじゃなく、この大陸でな!」
「それは羨ましい事だ。アイテムを羨むより羨ましい」
この森の中で反りが合わないであろう連中の軍監として活動していた事に対する不満を吐露したといったところか。
「俺がこうやって無事に戦えるのは、アイテムもさる事ながら、装備のお陰でもある。そして、それを扱えるくらいの体力作りも出来ているのが、さっきの電撃を生き抜いた事にも繋がっていると自負はさせてもらいたいね」
「させてもらいたいというのが謙虚なことだ……。本当に精神面も中々に優秀……」
「二度目の賛辞ありがとう。謙虚ってのは大事な事だからな。じゃないと痛い目にあう」
「はっ、勇者が痛い目に遭うか」
「そうだぞ。俺なんかよりも強い存在はかなりいるからな。俺の仲間だけでも百は超えるね」
胸を張って堂々と言ってやる。
堂々と言うような事でも無いんだろうけども、誇れる方々なので堂々と言っても恥ずかしさはないね。
「……その言い切りよう。真実か……」
ベルにゲッコーさん。百人のS級さん。高順氏。
この面々と俺がタイマンをした時、いい勝負ができそうなのは高順氏くらいだな。
でも軍を指揮して戦うとなれば、俺は高順氏に太刀打ち出来ない。
知能面では先生や荀攸さんという超えられない壁。
――うん! 俺はまだまだ弱い存在なのだと痛感させられる。
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