PHASE-1377【分隊から小隊】

「いやはや、超えられない壁が多すぎて、常に切磋琢磨しないといけないって痛感させられる」


「そうか……。こちらとしては聞きたくもない絶望的な発言だ」


「エビルレイダーで俺達に絶望を与えるって言っていたけども、それ以上にこっちの戦力に絶望してくれてありがたいよ。あ、話半分で聞いとくとか思わない方がいいよ。むしろこれでも抑えてるくらいだから」


「……我々がこの森で行ってきた一年間は無駄になるのかな?」


「ならない、ならない。俺達にとって躍進となる存在がいるからね」

 エビルレイダーにキュクロプス。

 この存在たちが俺達に新しい道を切り開いてくれるからな。


「誇れば良いさ。俺に強烈な電撃を浴びせる事が出来たことに」


「強者の言い様だな。事実だから仕方ないか」

 俺を強者と思ってくれるのは誇らしいことだ。

 強者である存在に言ってもらえるのだから尚更だ。


 だからこそ――、


「ここで終わろうか。怨敵だから断るとか言わないで、俺達に降伏してほしいね」


「断る」

 ――……即答だな。


「それは軍監として正しい返しなのかな? 付き従ってくれている部下も道連れにするつもりか?」

 言ってコクリコやシャルナ達と戦う連中の方を見る。

 十四人いた連中も既に片手で数えられるだけしか立っていない。


「これ以上の犠牲はなくすべきだと思う」


「お断りだ!」

 と、言うのは俺と対面している存在からじゃなく、コクリコ達と相対する方から。


「だ、そうだ。降伏より矜持を選んだようだ。流石は我と共に行動するだけあるだろう。揃いも揃って不器用だ」

 ――…………。


「ふぅぅぅぅぅ……」

 重っ苦しい長嘆息を吐き出す。


「その嘆息だけで十分だ。我らを相当に買ってくれているというのが伝わってくる」


「とても残念だ。ショゴスってスライムがどんなのかはまだ分からないけども、前魔王であるリズベッドやガルム氏にアルスン翁。サキュバスメイドさん達にランシェルとは仲良くさせてもらっている。敵であっても尊敬できる武人もいれば、反面、蹂躙王ベヘモトみたいなのもいる。お宅等は前者の面々と同じような性格だから分かり合えると思うんだけどな」


「ありがたいことだな。そうか――リズベッド様はご健在か」


「前魔王派閥に入るつもりも――」


「ない。我は今の魔王様に忠誠を捧げている」

 ここでも即答だな。

 即答ゆえに忠誠心の高さも窺える。


「話だけ聞くと強欲な存在みたいだけども」


「ああ、カルナック様以上だろうな」


「そういった思想に従うタイプなの?」


「全てを統一するにはそれくらいの欲望も必要ということだ。カルナック様とはまた違った欲望でもある」


「自分の為の欲望ではなく、魔王軍全体の為の欲望ってことかな?」


「有り体に言えばな」


「容認できないね」


「当然だろうな。思想が違うのだから」


「そもそもがリズベッドの件を知っているからな。信用できない」

 リズベッドの力を手に入れ、力を手に入れてからの侵略活動。

 カルナックと大して変わらない。

 力を奪った後もリズベッドを増幅装置みたいに扱っていたしな。


「そちらが信用してくれなくとも、我々が魔王様を信用していればよいだけ」


「護衛軍所属は伊達じゃない」


「下らん話は終わりだ」


「おう、終わらせよう」

 力量差は理解できている。

 この間合いならエビルレイダーも電撃を放ってこない。

 勝負は決した――とは思わないけども、俺の勝ちは揺るがないという過信も抱きたいくらいには力量差はあるからな。

 投降はしない、戦いはやめない。

 

 ならば――、


「勝負」


「来るがいい!」

 震える体で立ち上がり、ハルバートを強く握りしめれば震えが止まっての仁王立ち。

 弱ってはいても威光による圧力は十分にある。


「バーストフレア」

 正面から放たれる火球が俺が今立つ位置へと着弾する前に、


「ブーステッド」

 ここぞという時となれば頼ってしまうピリア。

 短時間の使用で体に負担を与えないだけのコントロールは可能となった潜在能力を引き出す上位ピリア。

 肉体強化ピリアなんかとも重複して使用できる俺の切り札。

 ブーステッド使用時となれば、高速移動であるアクセル使用後に生じる重心移動の崩れが発生せず、直ぐさま攻撃へと移行できる状態にもなれる。


「プロテクション」

 と、警戒をしたヤヤラッタはバーストフレアから矢継ぎ早に自分を囲むように障壁を展開。


 でも、既に――、


「障壁の中だよ」

 アクセルによる一足飛びでヤヤラッタの足元まで移動した俺の手に握るのは二刀から一刀。

 選んだのはマラ・ケニタル。

 ウインドスラッシュを纏わせたマラ・ケニタル。

 鈍く灰色に輝く刀身には、目で見えるほどの風が留まる。

 自分で発動しておいてなんだけど、ブーステッドの影響下での発動だからか、今までで一番、濃密な風を纏っていた。


「森での一振りは見ている。振り抜く前に叩きつぶす!」

 言葉通りヤヤラッタの一振りは、ハルバートの斧刃を使用する攻撃ではなく、俺の至近に対応できなかったことで柄による打撃へと変更。

 ――それでも俺の動きには対応はできない。

 この濃密な風――スクワッドとは呼べない。

 分隊の上となれば――、


「プラトゥーンリーパー!」

 発しつつ、逆袈裟にて斬り上げる。

 刀身による斬撃がヤヤラッタの太股を襲い――、


「お……見事……」

 斬撃が太股に新たな刀傷を刻むと同時に、巨体の全方位を風の刃が包囲して切り刻んでいく。

 風の刃の数は今までと違い、二十を超えていた。

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