PHASE-202【このままでは終わらない。終わらせない!】
「男を癒やす為の次なる一手を……」
「で、性病に繋がるおそれがある――と?」
「いや~。うちはそういうところはしっかりと管理する社風でして」
「そうです。だからこそまずは性病対策として、医療機関が大事という考えに至ったのです」
横から先生がフォローに入るが、コクリコとシャルナに遮られてしまう。
あと、全くフォローになってない。
ここでのフォローってのは、この面子がいる時に性病って発言をしないことが、最高のフォローでしたから。
「なにが社風だ。飲み屋だろう? お前がやろうとしてたのは! 次の一手とはそういう店を建てる予定だったのか?」
「まあ、その~。俗にですね、予定は未定という言葉がありまして」
「一生、未定のままにすべきだと思うが」
「う~ん。でもですね、やはり必要という声もありまして~」
崩れ去った理想郷の欠片をなんとか集めて、反論してみる。
「誰が言っているんだ。修正してやらねばな」
――……でたよ。すぐ暴力……。
「実際、そういうお店も必要ですから!」
「なんだその悪態は」
「直ぐに力で訴えようとする人は野蛮だと思います~。風俗が野蛮とか思っている以上に野蛮です~」
「ハハハ」
あら珍しい。中佐が声を出して笑うなんて。
といっても乾いた笑いだけども……。
「トール。修正は暴力ではない。正道な力の行使と言うのだ」
軍人脳め! 今の教育制度を真っ向から否定する発言だ。
どう言おうとも今のご時世は体罰は駄目なんだぞ!
俺の世代は、体罰ご法度世代だぞ! 殴ったら教育委員会に訴えてやる!
「まだ折れようとしないか。反抗的だが強い目でもある。別の事に向けられれば好感も持てたのにな。よほど娼館に興味があるようだな」
お前等の炯眼よりは弱々しいだろうけどな! というか、好感持ってもらえるなら、考え直そうかな……。
だがしかし、ハーレムの夢は捨てたくない!
だってこいつら俺にまったく優しくないもん!
折れない俺の姿に、ベルは嘆息。
継いで口を開く。
「政治において、双方の政治倫理に齟齬が生じた場合、最終的に何に発展すると思う?」
「…………せ、戦争です……」
俺の声は、震えている。
「そう、戦争だ。力の行使は、勝てばどんな非道でも正道になる」
あれ? 俺、殺されるの?
「なにか言いたいことは」
「俺は間違っていない! お前が潔癖すぎるだけだ! 必要なものを必要と唱えてなにが悪いか!」
「胆力だけは認めてやる」
「ぐえ!」
例え炯眼で首を絞められようとも!
男代表として曲げることの出来ない野望がある!
「退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!
「うるさい!」
「てんはかっざづ!?」
最高記録を更新したビンタだった……。
とんでもなく痛いし、音もよく響くものだった。
見舞われた俺はあまりの衝撃に、殴られるままに体は回転し、長机へと倒れ込み、机や椅子を派手に巻き込んで倒れ、それ等の下敷きに……。
なんということでしょう。
野良の冒険者さん達はベルの一撃に戦々恐々である……。
「その無駄な胆力をギルドの為に活かせ! 阿呆が!」
言って、凛とした佇まいから反転して俺から去っていく。
「最低ですよ」
「それだけですんで良かったと思う事ね」
と、取り巻きの如き、コクリコとシャルナも去っていく。
「……フフフ…………。これで終わったと思わないことだ。俺の計画が崩れ去ったとしても、第二、第三の俺がきっと現れてくれる……」
ゆらりと起き上がりつつ俺は負けたと思いたくないから、不敵の笑みを顔に貼り付ける。
そしてテンプレ魔王の如き発言を――――、
「ふん!」
「ちょん!?」
背中を見せていたベルが、テーブルにあった木製のコースターを手にして振り返る。と、同時に、思いっ切り投擲。
俺の額に直撃……。
再び倒される……。
天井を仰ぎ見る中で、三人が去っていく足音だけが耳朶に届いた。
「ふむふむ。ほとぼりが冷めるまでは、この企画は先送りにしましょう。医療機関を設立することがやはり大事でしょうし」
「ああ、ふぁい」
俺の顔を覗き込む先生に返すと同時に、心底では貴男が余計なことを言うから! という強い憤りを感じざるをえない。
だが、このままでは絶対に終わることは出来ない!
俺はハーレムを作るんだ!
俺に優しい女の子たちに囲まれてイチャイチャしたいんだもん!
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