PHASE-423【サキュバスとはまた別】

「侯爵の今までの努力を無駄にしないためにも――」

 あいつは倒さないとな。

 まあ別に侯爵は死んでないけど。

 倒れている侯爵を見れば、呼吸をしているのは分かるからね。


「ブレイズ」


「流石は勇者殿だな。では私も――――ライトニングエッジ」

 発せば、バリバリとけたたましい音と共に、ロングソードの剣身全体を青白い電撃が迸る。


「魔法剣だ!」


「貴男のもだろう」

 俺のはちょっと違うけど。残火とタリスマン有りきで、自分の実力じゃないからな。

 魔法剣か――、ファンタジーの浪漫だな。ゲームだと強ポジでもある。

 これは期待が出来そうだ。


「行くぞ!」

 俺を置いて、横に立っていたイリーが滑るように床を疾駆。青白い光の軌跡を残しつつ、


「はぁ!」

 気迫と共に、大上段から雷を纏った剣をゼノへと振り下ろす。

 だがしかし……。

 イリーの表情が曇る。

 理由は簡単だ。ゼノが容易く剣を素手で受け止めた。


「魔法剣と言っても、初歩ではな」

 剣を掴めば、そのままイリーを投げ飛ばす。


「ぐぅ!」

 おお……。登場して即座に退場とはならないでくれよ。

 壁に叩き付けられるイリーに、追撃姿勢のゼノ。

 それに対して俺が側面より残火で刺突を仕掛け、追撃をやめさせる。

 騎士団団長なんだ。噛ませ犬だけは絶対回避してあげないと。


「俺のは掴まないんだな」


「掴めるわけがない。そこの騎士団団長の生ぬるい剣とは違う」

 しっかりと相手を貶していくスタイル。

 立てるか? と、イリーに問えば、問題ないと返ってくる。

 壁を見れば叩き付けられた部分にはヒビが入っているから、問題がないというのはやせ我慢だろう。

 ゼノは細身の体だが、膂力は凄まじい。

 俺が前へと立ち、


「魔法剣が使えるなら、回復魔法は?」


「ファーストエイドが使える」


「治療が終わったらサポートを頼む」


「了解した。来て早々に失態を見せてしまい申し訳ない」

 謝罪しつつファーストエイドを唱えるイリー。

 淡い緑光と燐光が体を包んでいく。


「いや、いてくれるだけで助かる」

 内のチートさん達は、俺の事を助けてくれる気配がまだない。

 今までの相手と違って、今回のゼノは、流石に俺一人だと厳しい。

 チート二人は協力してくれなくても、周囲の面子には期待したい。

 だってパーティーって基本はそうじゃん! あの二人がスパルタすぎるんだよ!


「コクリコ。イリーの回復が終わるまでカバーしてやっててくれ」


「いいですが、その間ヴァンパイア相手に一人で対処を?」

 流石に無理があると心配してくれるコクリコ。


「問題ねえよ」

 空元気を見せていくスタイル。

 燃える切っ先をゼノへと向ければ、小馬鹿にした笑みを返してくる。


「容易く精気を奪われていた者の発言とは思えないな」

 それに関しては……、その通りだと素直に認めるしかない。


「サキュバスの力がそれだけ凄かったって事さ。ランシェルちゃんは大したサキュバスだ」

 てな具合に相手を称賛することで、俺の器の大きさ見せていくスタイル。

 完全なる言い訳だというのは分かっているけどな。


「ランシェルが大したサキュバス――――ね。フ、フフ――フハハハハハハッ!」

 嘲笑の表情が破顔へと変化すれば、イケメンが台無しの今日一番の哄笑を上げる。

 回廊にゼノの高笑いが響き渡り、反響する。

 ――――腹を抱えたゼノの笑いは、次第に狂ったような笑いになっていた。

 俺があまりにも面白い事を言うと、器用に空中に浮きながらの抱腹絶倒。


「実際、ランシェルちゃんの方がお前より凄いんじゃないのか」

 馬鹿にした発言を言ってみても、意にも介さないように笑いはやまない。


「そんなことは万に一つも無い。私が、ハハッ! おかしくてたまらないのは、勇者。貴様の発言だ」

 …………? 意味が分からない。

 俺が何か面白いことでも口にしたのだろうか。

 ――――英雄色を好む。好き者ならどちらもいけると思っていたが――――。とか、なんか独り言を発しながら、俺を見て笑い続けるのがむかつく!


「俺の発言の何処にそんなに笑える要素があるんだ!」


「ランシェルだよ」

 ますます分からない。ランシェルちゃんの方が強いって揶揄には、しっかりと否定してきたから、その事じゃないのは分かるが……、


「何なんだよ。はっきりと言え!」


「では言わせてもらおう。ランシェルは――――サキュバスではない」


「は? お前さっき、メイドさん達はサキュバスって言っただろうが!」


「ああ言った。だが、ランシェルは違う。その者はサキュバスではなく、ハハハッ! ――――インキュバスだよ」

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