PHASE-1133【控えなさい】

「……な、なんなんだ……その除細動器は?」

 珍しくゲッコーさんが驚きだな。

 語り方に若干の動揺が見られるのは何とも新鮮。

 初めて目にすれば誰だって驚くだろうから仕方ないけどね。

 ――この除細動器に関しては。


「凄いでしょ」


「凄いなんてもんじゃない。間違いなく彼は死んでいた」


「でもコレなら可能なんですよ」


「いやしかしだな……」

 困惑するゲッコーさん。

 伝説の兵士が判断したものが覆されたんだ、驚くのは仕方ないよね。

 普通に見れば、蘇生も不可能な即死状態からの復活だからな。

 

「コレの凄いところは、エイブラムスなんかの120ミリ徹甲AP弾でヘッドショットを受けた後でも蘇生できるんです」


「…………」


「……あの、俺を可哀想な人間を見るような目で見ないでください……」


「見てしまうだろう。おかしな事を言うんだからな……」

 アンタかてゲーム内でミサイルとか喰らっても、ダメージを受ける程度ですむじゃないか。

 そこはツッコまないでいてやるけども。


「本当なんですよ」


「いいかトール。120ミリ滑腔砲からの砲撃が直撃すれば人間は原形なんて残らない。頭がどうのこうのや、ミンチなんてものじゃない。存在が無かったかのように消し飛んでしまう」

 そうなんですか?

 でも本当だからしかたない。

 俺だってね、なんで蘇生できるんだよ。って、ゲームプレイ中に笑いながらツッコんでましたもん。


「ですが――いま目の前で起こった事が現実ですよ」


「まあ、そうだな……」

 完全に死んでいたと思われたハウルーシ君が生き返ったわけだから、俺の発言を信じるしかないと、ゲッコーさんは自分を納得させるかのように首を縦に振る。

 良い意味で裏切られたもんだから、笑みを見せて首肯だった。


「しかし……こっちは駄目だったな」

 ゲームと同じ仕様ということもあって、カゲストは敵として認識されているからか、倒れるカゲストの上にはマークは出てこなかった。


「情報源が失われたか」


「でもこの近くにはいますよね」


「間違いなくな。さて手がかりは――」


「すまない勇者。狼は取り逃した。あとコレを――」

 と、エルダースケルトン。

 カゲストがサルタナを捕らえると、わずかな牽制を行った後、ミストウルフの群れは撤退したとのことだった。

 そして甲高い音を鳴らした原因を俺に手渡してくれる。

 音の原因は予想通り鏑矢――の矢の部分だけがないモノ。

 木製の鏑だった。

 これだけが手かがりってのもな……。


「やっぱコイツから聞き出せないのは残念ですね……」

 死者となってしまっている時点で話を聞くことは不可能。

 リンがいてくれればアンデッドにも出来るんだろうが、現状はいないからな。


「すみません師匠……僕が……」


「いや、サルタナが悪いわけじゃない。仕方なかったことだ。それよりもお前たちに命を奪う行為をさせてしまった俺が不甲斐ない」


「それを言うなら俺もだ」

 ゲッコーさんが続く。


「そんな事は決してありません。僕たちは師匠とゲッコー殿のお陰で救われたのですから」

 と、エリス。

 仲間を救うために力を振るうのは当たり前。

 それによって相手の命を奪う事になるとしても、躊躇はしないし顧みないそうだ。

 顧みないという思考は戦いの中では必要なことだな。

 毎度毎度、生き死にで悩まされる俺なんかより、戦いに対する覚悟はしっかりと出来ているようだ。

 とはいえ、弟子たちに命を奪わせるって行為をさせたのはやはり師として情けない。

 

「と、ここで検討はまだ早いぞトール」


「ですね」

 ゴロ丸が俺達の前に立ち塞がるように立っているとはいえ、ダークエルフの皆さんは未だこちらへと鏃や切っ先を向けている状況。

 でも戦いを再開しようとする動きはない。

 むしろ倒れているカゲストに視線を向けているのが分かる。

 怒りの視線だと感じ取れる。

 ハウルーシ君を汚らわしいウーマンヤールと発しながら斬ったんだからな。いくら利用するために共闘していたとはいえ、言動には我慢の限界だったようだ。

 少なくも残った――というより逃げるタイミングを逸した私兵たちはどうするべきかと右往左往。

 こちらも戦うつもりはないのか、手にする利器は地面に向けられている。 


 そんな面々を見つつゴロ丸の横に立ち、


「こちらは既に次期王の安全を確保させてもらいました。これ以上の抵抗はしないでいただきたい」

 と、俺は伝える。


「やめられるかよ! ここでやめれば我々は今度こそ処刑されるだろう。その覚悟もあって決起もしているがな」


「覚悟を美徳にするのはそちらの勝手ですけどね。それによって真っ先に子供が犠牲になりかけた!」

 ハウルーシ君がカゲストに斬られる姿が脳裏に焼き付いている俺の語気は怒りに支配されてしまった。

 耳が痛かったのか、対面する面々は静まりかえる。

 戦闘による興奮や怒気が入り交じった空気が静謐な方へと傾くのが目に見えて分かった。


「結局カゲストは貴方方を利用するだけ利用しただけなんですよ」


「それはこちらも一緒だった」


「お互いが自分の利害のためだけに寄り添う。そこに確固とした盟は生まれない。次はその利用しあった者達による戦いとなるだけだ」

 一服とばかりに紫煙を燻らせるゲッコーさんが鋭い眼光と共に発せば、ダークエルフさん達は後退り。

 

「ここらで止めてくれませんか」


「そうなれば我々は……終わる……」

 跛を引きながらのネクレス氏。

 気がついたようで何より。

 俺との戦闘によるダメージは未だに回復されていないようだけど。


「回復は?」


「いらん」

 ぶっきらぼうに俺へと返す。

 施しは受けないといったところ。


「貴様等がこの事に関与した時点で、我々の思惑は成就しない運命だったのだろうな……」

 俺達の前へ来てからそう発せば、ドカリと地面に座るネクレス氏。


「ダークエルフ側の首謀者は俺だ。俺の首で終わらせてくれ」


「と、言っているけど、どうするんだエリス」


「無論、そんな事はしません」

 エリスとサルタナ。ハウルーシ君の三人もこちらへと来れば、俺の思考がリンクしているゴロ丸が二体のエルダースケルトンと共にしっかりと護衛に入ってくれる。

 次期王がこちらへと赴けば、ダークエルフの方々は身構える。


「何を構えている?」

 ここでゲッコーさんが更に前に出て――、


「次代の王の御前である。控えよ」

 と、煙草を咥えたまま継ぐ。

 ――……なんだろうか……。この言ってみたかった感は……。

 ゲッコーさんの横顔を斜め後方から見ると、満足そうに笑みを湛えていた……。

 やはり俺、コクリコと同族だよね……。

 

 重圧を与えてくるゲッコーさんに言われれば、身構えていたダークエルフさん達は武器を地面に置き、素直に片膝をつく。

 王族の前だから――というよりは、座り込んだネクレス氏の姿を目にした事で、諦めたといったところか。

 ネクレス氏――やはり人徳あるね。

 先生や荀攸さんがますます気に入る人材だな。


「お前たちもだ」

 ダークエルフさん達に対する時よりも声に鋭さがあるゲッコーさん。

 ポルパロングからカゲストへと鞍替えした私兵たちもその声に素直に従い、ダークエルフさん達と合流して片膝をつく。

 これが俺だと、目の前の面々は中々に従ってくれないんだろうけどな。

 ゲッコーさんだとスムーズに事が運ぶね。

 

 やはりゲッコーさんと俺の威厳は天壌の差だな。

 そもそも俺に威厳なんてないけども……。

 勇者でギルド会頭。でもって公爵なんだけどな……。

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