PHASE-620【上から目線はぶれない】

「にしてもスゲーな……」

 麓部分の町並みは、ジオフロントと同様に居住区もしっかりと建てられおり、加えて厩舎を思わせる建築物もある。

 上のジオフロントと違って、ここは戦いに関わる者達が寝食をするための拠点となるそうだ。

 兵馬俑もびっくりなクオリティだよ。

 それらをしっかりと見渡せるだけの灯りによって照らされているのにも凄き。

 力の間から、麓部分の城壁に囲まれた町までの階段は、常に白光色の灯りによって照らされていて、とても山の内部にいるなんて思えなかった。

 

 灯りは力の間に蓄えているマナによる恩恵の一つって事らしい。

 理由が分かっていたらオベリスクだって破壊しなかったのにな。

 城壁に備わった鉄の門が自動で開かれ、俺たちは外へと続く坑道を歩く。

 そして――――、次の鉄の門が開かれれば、そこから冷気が入り込んでくる。


「ほほう」

 開かれた門の外装は草木による偽装が施されており、門が閉じれば、どこに門があるのか分からない工夫となっている。


 ――――二台のJLTVが街道を走る。

 初めて目にして車乗するとなると、リンも今までの皆さん同様、共通して驚いてくれる。

 俺も運転できるようになったので、ゲッコーさんに先行してもらい、その後に続く。

 嬉しい事に、俺が運転する方にベルが乗ってくれる。

 助手席じゃないのが残念。

 隣にはコクリコ。俺の後ろがベルだ。

 で、ベルの隣はリンとなる。

 一応の警戒ということでこういった配置。

 下手な動きをしたらいつでも力を行使するといったところだ。

 警戒する必要が無かったなら、ベルが助手席に座ってくれて、シートベルが見せる奇跡。パイスラを拝めたんだろうにな。

 そこが残念でならない。


「大したものね。貴男の力は」

 揺れが少なく長距離移動を可能とするからか、最初は驚いていたリンも乗り心地にご満悦。

 座席の快適さを堪能して、ゆったりと座っておいてほしい。決しておかしな行動は選択しないように。と、釘を刺せば発言には従ってくれる。


 釘を刺さなくても、走行中は常にベルが目を光らせ、俺の斜め後ろのリンは静かに座ってくれていた。

 

 ――――休息を取りつつ、何事も無くドヌクトスへと到着。

 俺たちの帰還は空が白む時間帯。

 朝霧の中、ドヌクトス外周で警備するS級さんと、ドヌクトス兵士の方々に挨拶をしてから門の前へと到着。

 開門を待つ事はない。なぜなら既に門は開かれているから。


「トール殿!」

 と、朝霧の中、開口一番に声を張り上げて俺の名を呼ぶ声は侯爵のもの。

 しっかりとした輪郭を捉える事は出来ないけど、霧の中に浮かぶランタンの灯りの中心に立っている人物が、慌てるようにこちらに向かって走ってきているのは確認できる。

 その後方から兵士が追従しているというのが、金属鎧が擦れる音で把握できた。

 

 朝霧の中から姿を現し、全体が視認できる指呼の距離で侯爵が立ち止まると、


「ど、どうでしたか!」

 吉報で有れと願っているのか、目が血走っている。ちょっと怖い……。

 さっきまで寝ていたんだろうが、俺たちの帰還の報を耳にし、飛び起きたというのが外見から窺える。

 出で立ちはナイトガウンの上に青羅紗の羽織り。

 周囲に護衛がいる状況下であり、且つ自身が治める地とはいえ、領主が市街を歩く姿としては隙だらけのものだ。


「戦闘にもなりましたが、合意を得てこちらに」

 リンの方に手を向ければ、侯爵はそっちを見て、


「おお! おおっ!」

 興奮で顔を赤くする侯爵の目は血走ったものから、安堵の涙を浮かべるものに変わった。


「移動中にも聞いたけど、ここまできて呪解は無理ってことはないよな?」


「大丈夫よ。問題ないから」

 その不敵に笑みを湛えるのはやめてくれないかな……。

 虚言のように思えてくるから。


「もし約束をたがえば、我が魔法で制裁を加えます」


「あら怖い」

 発言と違い、全くもってコクリコの事を怖がっていないご様子。

 ムッとするコクリコだけども、二人の間に侯爵が遮るように立てば、


「貴女がリン・クライツレン殿。昔年せきねんの大英雄とこうやって出会えるとは」


「はいはい。それよりもヴァンピレスにした事に対して、積年せきねんの恨みを晴らすくらいの怒りをぶつけてもいいんじゃないかしら」


「怒りは抱いておりますが、その抱く相手が呪解が出来るのならば、平身低頭になるのが当然」


「あら殊勝ね。この地の領主は女にだらしないと聞いていたけど、しっかりしているじゃない」


「耳が痛いですな……」

 発言が正鵠を射ていたからか、言うだけあって平身低頭な侯爵。

 まったく……。とてもじゃないけど、敗北して俺たちに連れてこられたとは思えないほどに、上から物を言う。

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