PHASE-1036【エルフの身分制度】
「父様は一応、氏族だから」
態度同様にシャルナの声には不満があった。
「一応とはなんだ。お前もそうだ。ファロンド家は代々、氏族の家系であり、軍事、警備を統括する立場なのだ。お前も少しは――」
――……代々ってなんだろう。
ルミナングスさんは五千年以上を生きているのに、代々とかってあんの?
その前にも世代がいくつかあるなら凄いというより恐怖だね……。
そんな先達がつくった国を守っていくのが今のエルフさん達の立ち位置。
やはりと言うべきか、しっかりとした階級社会によってこの国は成立しているそうだ。
歴史ある階級制度。それを維持しているのだから全体に受け入れられているのか、それとも反発すれば力で押さえ込むのか、村八分にするのかは分からんが、いま思い浮かんだ俺の浅い想像は、一通りは起こっているんだろうな。
人間も同じようなものだし、何よりシャルナの不機嫌さがその答えなんだろう。
――――もっと知りたいとルミナングスさんに伝えれば、俺の為ならばと説明をしてくれる。
エルフの身分階級に置いて第一位はエルダールと呼ばれ、王族の階級となる。
第二位はヴァンヤールと呼ばれ、ルミナングスさんが位置する氏族の者達。
古より王族を支えてきたのがこの氏族階級であるヴァンヤールだそうだ。
唯一、王族に対して意見を述べることが許されており、物事を決める時には過半数以上の氏族の声が上がれば、エルフ王の提案が覆されることもあるという。
ここまでが
第三位はノルドールと呼ばれ、官僚や軍属として王や氏族の命によって国の内側を守り維持する立場。
ノルドールはハイエルフやエルフがその役職に就くとされる。
ルーシャンナルさんなんかがこの地位にいるそうだ。
第四位はテレリと呼ばれる民。
エルフやハーフエルフが民としてこの国を支えているそうだ。
説明を受けて思うことは、やはりこういった身分制度は人間もエルフも変わらないといったところだ。
この世界の人間もそうだし、元々いた世界にもカースト制度ってのがあった。
種族、世界は違えど考えは同じ。
「ねえ、父様」
「……なんだ?」
説明をしてくれたルミナングスさんにシャルナが割って入る。
シャルナは今まで以上に不機嫌な感じだし、ルミナングスさんの表情も暗い。
シャルナが何を言おうとしているのか分かっているかのようだった。
そんなシャルナが、
「ウーマンヤールが入ってない」
「それは……いま言うことではないぞ」
明らかに娘の発言に父親は動揺している。
「そういったのが続いているから外に出たいのよ」
「う、ううむ……」
立場逆転とばかりにシャルナが強気になっている。
対するルミナングスさんの耳は、元気のないうなだれた笹の葉のようだった。
俺たち人間なんかよりも、遙かに長い時間を生きている種族。
でもってしっかりとした階級社会となっているなら、何かしらの問題を内包しているってのは想像に難くない。
俺達としては黙って出されたお茶を飲んで、状況を窺うのが得策だろう。
余所様の事にあんまり首を突っ込んではいけない。
「トールも勇者で公爵なんだから、なんか言ってあげなよ」
ええ……。
状況も分かっていない俺になぜ振るんだよ……。
「よさんか。外の方々に言う事ではない。それよりも戴冠式が近いのだ」
「へ~大事な時期ってそれか。新しい王様はどういった考えを出すんだろうね」
「現王と変わらず調和を大事にしてくださる」
「どうだか。変わらない時点で駄目なんじゃないの。ねえトール」
なんでここでまた俺に振るんだよシャルナ……。
逃がしてくれないね。
――……。
でもってなぜか皆して俺を見てくるよね……。
「まあその。あまり反感を買うような事案が発生しない事をミルド領の主として願っております。何よりも戴冠式とはめでたいことですね」
なんとも当たり障りのない発言で茶を濁してみる。
まだ来たばかりの国で、内情も知らない人間がでしゃばるのはよくないんでね。
戴冠式もあるようだし、なにより今後の魔王軍との戦いにて協力をお願いしたい立場としては、波風は立てたくないのも事実。
そんな日和った俺の対応にシャルナはますますご機嫌斜め。
――……なんだろうか……。政治屋の方々の苦労をわずかだけども理解した。
対外政策って如何に良好を保ちつつ、自国の意見をねじ込むかって事なんだろうね。
その為には相手側の内情に深く突っ込んで不快にさせないというのも大事なんだろうな。
勇者という立場なら、そんな事を考えずに正義の二文字で行動するんだろうけどさ。
でも公爵でもあるんだよね……俺。
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