PHASE-1035【インテリアもファンタジー】

「本当にうちの跳ねっ返りがご迷惑をおかけしております……」


「お父様、跳ねっ返りじゃないから。それに迷惑はかけてない。私はしっかりと活躍してます」

 反論はするけどもやはり父親は苦手なようで、先ほどからイカ耳状態を維持するシャルナ。


「この放蕩者が! 見聞を広めると言って出たきり戻らないとは! 勇者殿がこの国を訪れてくださってよかった。大事な時期なのだかな」


「仕方ないでしょ。瘴気が蔓延してたんだから」


「だからといってこの百年の間に戻ってくる機会はあっただろう」


「いいじゃない。たかが百年くらい。大事な時期とか言われても知らないし」

 ――……俺達は一体なんの会話を聞かされているんだ……。

 人間だと今生の別れを軽く凌駕してる話なんだけど……。


「まったく。お前はもう勇者殿の仲間になったのだ。恥をかかせてはならんぞ。今後は連絡だけでも寄越すように」


「はいはい分かりました」


「勇者殿の前だからこれだけですんでいるのだぞ」


「はいはい」


「はいは一回」


「は~い」


「のばさない! 本当に、お恥ずかしいところをお目にかけました」


「ああ、いえいえ……」

 時の流れの使い方がダイナミックすぎてそっちに気を取られていたから、話の内容なんて入ってきてないよ。

 ルミナングスさんのお怒りが解けたと判断したようで、途端にイカ耳が元気に動き出す。

 年齢は凄いけども、シャルナの思考は俺達と変わらないよね。

 エルフって長命だけども、なんというか揃いも揃って賢者って感じの立ち位置ではないよな。

 長命による貫禄ってのがないからな。

 いろんな作品にもエルフは登場するけど、魔法や弓の技術は確かに凄いが、賢者って呼ばれる存在よりも人間味に溢れた存在の方が多いような気がする。

 目の前のやりとりも正にそれだしな。


「勇者殿。御一行がこの国に滞在する間は、この屋敷を我が家だと思って利用してください。無駄に部屋だけはありますので」


「ありがとうございます」


「中々に素晴らしいお住まいのようで」

 ここでひょっこりと俺の後ろから姿を見せ、室内を見渡す琥珀の瞳のコクリコさん。

 

 人様の家の内装をキョロキョロと見るんじゃありません! 恥ずかしい! と、注意をしてみても、ベルではなく俺の発言となれば聞く耳は持たないのはいつものこと。


「何も無いところですが、従者殿がお気に召してくださり何よりです。好きなだけ見てください」

 ルミナングスさんの寛容さに感謝だ。

 でもそんなことを言えば、コクリコは言葉をそのまま受け取って、好き放題するかもしれませんよ。

 

 ――まあコクリコが楽しげなのも分かるけどね。


 丁寧に一部屋一部屋を案内してくれるルミナングスさん。

 目で楽しむ事の出来るモノが多かった。


 一つの鉱物から切り出して作ったという長テーブルはほのかな緑光にて輝いており、暗がりの中でも周囲を照らすだけの力を持っていた。

 

 テーブルの周囲に等間隔で生えた――というより置かれたキノコは、そこいらの椅子と同等の大きさであり、実際に椅子として使用される。

 長テーブルの光に照らされるキノコは何とも幻想的。

 こういったインテリアが今のエルフ達の間で流行っているというのも教えてくれた。

 趣向を凝らして客人の目を楽しませてくれるのも、家主がわざわざ部屋の説明をしてくれるのも、全ては勇者殿と御一行だからこそと言ってくれる。


 いや~勘違いしそう。


「勘違いはするなよ。お前はまだまだ弱者だからな」


「そういう事だ」


「あ、はい……」

 俺の心を読んだとばかりに、薄暗い部屋の中でベルとゲッコーさんの最強さん二人が釘を刺してくる。

 最終的に調子に乗ることが許されないのが俺の運命さだめ……。


 暗がりで目を楽しませるインテリアを堪能したところで、タイミング良く部屋に灯りがつく。


「ご自由におかけになってくだ――」

 ルミナングスさんが言い終えるまで待てないとばかりに、


「では遠慮なく」

 椅子取りゲームでもあろうものなら、優勝間違いなしのコクリコ。

 もちろん長テーブルということもあって、腰を下ろすのは――上座。

 流石はコクリコ。いつだってぶれない。


「これは素晴らしい座り心地ですね」

 キノコの椅子はふわふわだとご満悦。


「確かにな」

 ベルも気に入ったようだ。

 抱えられたミユキはもっとふわふわなところでご満悦だけどね。

 

「どれどれ」

 ミユキを羨ましがりつつ、俺も腰を下ろそうとすれば、


「そこでよろしいのですか!?」

 俺が下座に座ろうとしたからか、ルミナングスさんが驚きの表情で声をかけてくる。

 コクリコが上座に座っている時点で、席にはなんの意味もない。


「何処に座っても問題なしですよ」

 そう返せば、ルミナングスさんの表情は、驚きから感心したものへと変わる。

 

 うむ。礼儀というか、階級にかんしていちいち気にするようだね。

 ルミナングスさんというより、エルフの社会は。

 わずかなやり取りだったけど、エルフ社会を垣間見たような気がした。


「おお! 確かにこれはいい」

 ふわふわの感触が臀部に伝わってくる。

 深く沈んで腰が埋もれた辺りでわずかな反発感を感じ取ることが出来る。

 柔らかさと低反発。臀部と腰回りを包み込んでくれるような座り心地は最高の一言。

 背もたれは無いけども、重心を後ろに向けてもしっかりとやさしく腰回りを包み込んでくれるから安定性も抜群。


「ゲーミングチェアに欲しい」

 真っ先にそう思う辺り、やはり俺はゲーマー。

 座るだけで疲れが抜けていくような感覚を得られるなんて、素晴らしいキノコ椅子だな。

 

 インテリアも屋敷自体も素晴らしい。


 こういった屋敷がエルフの王様が住まう城に存在することが許されるんだからな。


「シャルナってやっぱり立派な家柄なんだな~」

 キノコの座り心地が良くて、リラックスしまくった声でそう言えば、皆して首肯で返してくれた。

 皆も座り心地の良さにリラックスしているようで、首肯は鷹揚とした動きだった。

 でも言われた本人だけは頬を膨らませて不機嫌。

 何が気にくわないのやら。

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