PHASE-391【好感度ぐんぐん】
「気にしなくていいよ。当然のことだから。凝り固まった考えなんかに、いちいち心を煩わせる必要はないからね」
「お心がとても優しく、広いのですね」
「普通だよ」
「いえ、流石は勇者様。大器の心です」
まあ、自称バイカル湖のような広さと透明度を持つ、溶溶たる心の持ち主だからね。
ランシェルちゃんの笑顔を見れば、やはり中世的な考えは、改善していかないとな。
【守りたいこの笑顔】をスローガンに、王都の人々だけでなく、大陸の生きとし生ける者たちの笑顔のために俺は頑張ろう。
「トール」
「なんだベル」
声音が珍しく明るい。
ゴロ太やモフモフ達に対しては常に明るいけども、俺に対してとなると珍しい。
「素晴らしかったぞ」
「はぁ……」
まるで部下の成長を喜ぶ上官のような笑顔ですね。
普段、俺に対して見せない笑みだから、些か緊張してしまったぞ。
「偏見を持たずに、対等に見る事が出来るのは、出来そうで出来ない。それが出来るのは素晴らしい事だ」
ベルはチート的な強さと特異的な力を持っていることから、奇異の目にさらされている存在だからな。
敬われることのほうが多いが、敵国からは魔女や悪魔と恐れられる存在だし、共に戦う一部の者たちにも畏怖されている。って、ゲームの資料集にも記載されている。
守るべき帝国国民からも、もしかしたら恐怖に染まった目を向けられた事があるのかもしれない。
それが嫌だからこそ、今回のように対等に見る事の出来る人間には高評価をくれるのだろう。
コボルト達を救った時も高評価だったし。
とにかくベルが喜んでくれる事は、俺にとっても喜ばしい。
「いつもは残念な言動ばかりだが、今回は素晴らしかった。敬意の念を抱いたぞ」
おいおい、かなりの好感度アップじゃねえか。顔がにやけてしまうぜ。
ハハハ――――、俺いま幸せ。
――――ん? なんだかランシェルちゃんが楽しくなさそう。
ベルと楽しく話をしていたら、唇を尖らせてしまったよ。
拗ねているのかな?
――――これは!? 俺にもついに、勘違いじゃないモテ期が到来したのではないのだろうか!
美人中佐に、可愛い系メイドさんと織りなす異世界ラブロマンス。
これは頑張らないと!
好感度を上げるためにも、俺は弱者の味方として頑張るぞ!
邪な部分が大分入っているけど、頑張るためにはモチベーションってのは必要だから。
――――理由が邪でもいいよね――――。
「いや~疲れた」
大広間にて豪華な夕食を堪能しつつ、ふかふかの絨毯に足を伸ばして座る。
「あ、ここは土足禁止ね」
と、皆にちゃんと靴を脱ぐように指示。
このふかふかを靴底の汚れで汚したくはない。
足を伸ばした次には、大の字で仰向けになって天井を眺める。
豪華なシャンデリアに高い天井。奥行きに高さ、空間がとても広い部屋である。
「あの程度の散策で疲れるなんて、体力が無いですね」
「そうだよね」
コクリコとシャルナが、だらける俺を見つつ言ってくる。
俺はなんちゃらウィザードなのに、徒手空拳がべらぼうに強いスタミナ馬鹿でもなければ、森の木や枝に飛び乗り、音も無く跳躍移動するエルフでもないからな。
というか――――、
「俺を見下ろしながら言うんじゃない」
まったく、スカートを穿け!
今なら絶対に見えるのに。ショートパンツでもありがたいけど。
「この勇者、いま私の足を凝視しましたよ」
「凝視しましたよ――――それがなにか問題でも?」
「何を堂々と言いますかね!」
急に二人して距離をとる。最初からそういう恥じらいを見せなさい。
大体が体力が無いとかの次元じゃねえんだよ。
起きた途端に脱力で大変だったの!
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