PHASE-390【偏見は許さないマン】

 理由を聞いてこちらは脱力だ。ただでさえ今日は朝の起床時からしんどいのに、ここにきて更なる脱力に襲われた。

 

 宗教の違い。肌の色の違い。どうでもいい差別的な理由で争いがおこる俺の元いた世界も大概だから、偉そうな事は言えないけど。

 だが、あまりにも安直すぎる。


「そういう根拠のない内容で判断するな」


「根拠は昔から言われている。魔王軍に属するゴブリンにも黄色い目は多い」


「コボルトだって瞳の色は様々だったぞ」


「あの亜人達は無害だ。魔王軍に与している者たちで言っている」


「だとしても、黄色ばかりじゃない。それが根拠とか、最初から崩壊している言いがかりだな」


「しかし!」


「しかし! じゃないよ。根拠もなく言われる身にもなれよな。目が黄色だからってなんだ。人は人だろうが。俺はこの黄色い瞳は凄く綺麗だと思うぞ」


「トール様」

 ――……街中でもベルとシャルナに言ったが、俺いま、サラッと男前だけが言うことを許された台詞を口にしたような気がする。

 本当に自分自身が言ったんだろうか? と思ってしまう台詞を語末で言ってしまったな。

 言ってなんだが、凄く恥ずかしい。顔真っ赤になっていると思う。


「だが!」

 しかしに、だがにとうるさい美人だな。そこまでしてランシェルちゃんを目の敵にする理由を知りたいよ。

 やはりこの世界はいまだに中世だな。

 ちょっとした行き違いとかで、魔女狩りなんて最悪の事態になりかねない。

 こういう凝り固まった考え方の人間が増えれば、暗黒時代が到来する可能性もある。

 これは魔王討伐と同じくらいに大事な関心事としなければ。

 勇者として、偏見の壁をぶっ壊してやる。

 俺の後ろに立つ、愛らしい顔を悲しみに染めさせないように。

 ――――ここまでの事を女の子の前で口に出せれば、俺も一人前なんだろうな。


「もういいだろう。イリー殿」

 ここまで傍観を決め込んでいたベルが間に入る。

 長い付き合いである。そろそろ仲裁に入ると思っていたよ。

 長身の美人様がイリーの前で立ちふさがる姿は迫力だ。

 夕陽に当てられた白い髪が、以前の完全チートの頃を彷彿させるような紅色に――――、ん?

 ゴシゴシと目を擦り、細めて眺める。


「なんだ?」


「いや。なんでもない」

 気のせいか。

 髪が本当に赤く見えたが、夕陽が原因だったようだな。俺の視線に気付いて振り返ったベルの髪は、やはり白髪だ。

 

 俺のせいでやり取りが些か中断したが、ベルが再度イリーを見る。

 エメラルドグリーンの瞳は強い視線なのだろう。流石の騎士団団長も後退る。


「瞳程度の色の違いで判断をするのは、トール同様に反対です。イリー殿は見聞を広げるべきです」

 ベルの発言には俺と違って説得力があるのか、イリーは顔を伏せる。

 そのままぺこりと頭を下げて、俺たちが来た道に向かって歩き出す。

 すれ違い様に――、


「言い過ぎた。すまない」

 と、ランシェルちゃんに一言つげて、兵舎の方向へと去っていく。


「ふぃ~」

 体を弛緩させる。

 なんだかんだで、佩剣している人間に対して意を唱えるのは勇気がいるね。

 刃傷沙汰なんてないだろうが、絶対とは言えないからな。


「トール様」

 先ほどまでの弱々しい声とは違って、安堵と優しさの混ざった声。

 スカートを揺らしながら至近まで近寄れば、深々と一礼。

 ここに来てから、ランシェルちゃんの一礼ばかりを目にする。

 メイドだから当然なんだけど。

 ちらりとエントランス方向に目をやれば、コトネさんも心配だったのか来ていたようで、他のメイドさん達と一緒になって、俺に対して感謝を示すようにカーテシーにて挨拶をしてくれる。


「私ような存在を対等に見てくださり感謝します」

 顔を上げれば、嬉しそうな笑顔。

 でも、なんか寂しそうでもある。

 あれだけ痛烈な発言を受けていたんだから仕方ないか。

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