PHASE-1050【流石に実験は出来ない】
欠点は――、
「コクリコ、バッグを強めに叩いてみて!」
「分かりました」
いいね。
「せい!」
取り出したミスリルフライパンで殴れば容易く壊れる。
この脆さが欠点だ。
バッグなのに生地が裂けるとかじゃなく、爆ぜるように消滅するのはゲームと同じ。
そして――、
「出てこい回復バッグ――でもって回復バッグ」
――うむ。
やはりここもゲームと同じだな。
一つしか出せない仕様だった。
二つ目を出せば一つ目は消滅した。
「応急パック」
次に出したのは片手で掴めるモスグリーンの袋。
やはり十字マークがついている。
もう一度ガジェット名を発せば、二つ目が出現。
今度は一つ目は消えずに残っている。
これもゲームと一緒だ。
回復バッグのデメリットは一つだけしか出せない事。
大型なので離れた味方の所へ投げることが出来ない事――なんだが、これは俺が召喚する位置を調整すればいいだけだから問題はないな。
応急パックは二つ出せる。軽量なので遠くの味方に投げて渡す事が出来る。
デメリットはパック一つにつき一人しか回復出来ないという事だろう。
だとしても、プレイギアを持っている限り、俺はこの世界の回復アイテムを所持するのは不要と言ってもいいだろう。
持ってるのは皆にあげるか。
――いや待てよ。やっぱり最低限は持っておいた方がいいか。
プレイギアを取り出して召喚する時間よりも、雑嚢からポーション類を取り出して使用した方が早いからな。
緊急時はポーションなどのこの世界のアイテム。
余裕のある時は回復バッグや応急パックなどの召喚アイテムと使い分けよう。
そして――ここからが重要だ。
偵察兵のガジェットである心拍センサーもしっかりと機能。
看護兵のガジェットである回復バッグの回復効果もこの世界に適応される。
と、なれば――だ。
「俺はポイントだけの為に使用しない男。ネクロマンサーという称号を結構な率で手に入れる男」
「は? なんですか? 勇者からリンと同じ職種になるんですか」
「俺がリンのような最高位の魔術師になれるわけないだろう」
コンバットフィールドにて看護兵で味方を次々と甦らせることで与えられる称号もネクロマンサーなんだよな。
つまりは――看護兵ガジェットの除細動器による死者蘇生も行えるかもしれない。
試してはみたいけど、流石にこれは実験というわけにはいかない。
実験もそうだし、機会があればと願うのも危ない奴の発想だな。
機会なんてなくていいって思うのが真っ当な考えだろう。
だが今後そんな事が起こることもあり得る位置で活動しているのも事実。
しっかりと除細動器の存在を頭の中に記憶させておこう――――。
「本当に有り難うございます勇者様」
「勇者として当然のことをしただけですよ」
それは俺の台詞だろ。と、口に出すと俺が小さく見えるので、コクリコに好きなように言わせてやろう。
「これで危ない薬草取りもしなくていいね」
「はい」
サルタナ君は涙を浮かべ、頷きと一緒に返事をしてくれる。
とてもいい子なのが分かる。
俺どころかギムロンよりも年上だけどな。
「困った事があったらこの勇者トールになんでも相談してください。この国に滞在している間は可能な事ならなんでもしてくれますよ」
「おい」
「いいでしょう。勇者なんですから」
この国の階級が生み出している格差に納得がいっていないコクリコは、この国の者でないなら好きに動いてもいいでしょうという持論を展開。
それで相手側に悪い印象を与えるのはよくないんだけどな。
コクリコはその辺がまだまだ分かっていない――けども。
まあ、そうだな。
「出来る事があるならお手伝いしますよ」
俺も気に入らないので協力する。
魔王軍のために協力を取り付けることが出来たとしても、階級制に凝り固まっている旧態依然の連中が幅を利かせたままなら足並みを揃えて戦いなんて出来ないからな。
そんなのは邪魔になるだけだ。
「いいんかい会頭?」
「王様やルミナングスさんはともかくとして、他の連中には嫌われよう。アホみたいに長い時間の中を過ごしていながら、新しいことに着手しないで現状で満足している連中とは馴れ合いたくないからな」
「公爵としての立場ってのを覚えとるか?」
「足手まといはいらないってことさ。それならギムロンの故郷のドワーフさん達にご助力願いたいね」
「それなら簡単よ。珍しい鉱物に大量の酒で靡くぞい。権力派閥もあるがここほどじゃない。なにより美味い酒に弱い」
「そういった分かりやすいの本当に好き」
ドワーフさん達と出会う時は、リンにミスリルかオリハルコンのインゴットでも用意してもらおう。
フライパンなんて作る余裕もあれば、湖底にオリハルコンの塊を沈めることもしてるしな。
あの地下施設にはもっと良い物を保管していることだろう。
後は
「有り難うございました」
ククリス村の皆さんに感謝され、中央であるドリルブロッコリーへと戻ろうとしたところで、
「あの……勇者様」
と、サルタナ君がモジモジとしながら俺を呼び止める。
「なんだい?」
年上のお兄さんとしての立場で、二百四十歳のサルタナ君に問いかける。
「あ、いえ……。なんでもないです」
何でもないといった感じではないけども――、
「またここにも来させてもらうから、その時にでも聞かせてもらうよ」
「あ、はい!」
元気な返事だった。
言いにくい事があるとしても、出会う回数を増やすことで好感度を上げれば、新たな話を聞けるというのはギャルゲーでもよくあるシステムだ。
サルタナ君は男の子だけどな。
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