PHASE-1049【同時回復】
「さあ、サルタナ君のお母さん。私に怪我を見せてください」
「あいや、しばらく」
「なんですトール。せっかく私がハイポーションをあげようとしたのに」
「ちょっと試したい事が出来た。お母さん。お母さん以外にも怪我を負っている方はいらっしゃいますか?」
危険な場所まで行って薬草を自分たちの力で確保しないといけない状況からして、治療に困っている方々が多いと推測。
問えば、農作業や家屋の修繕で怪我をした者が数人いるという。
「よろしければここに集めてもらえませんかね。動けないほどの怪我ならこちらから出向きますが」
「重傷者はおりませんので問題ないでしょう。重傷の場合は
「ルミナングスさんとか」
「はい。ファロンド様とその配下の方々は我々によくしてくれます。もちろん他の方々も治療はしてくださいます……」
なるほどね。
流石はシャルナの親父さん。
この国の良心と言ったところか。
ならば尚更ルーシャンナルさんが回復をしてくれなかったのには引っかかる。
でも部下の方々もよくしてくれているって言っているし、やはり急ぎの用件でもあったと考えるべきだな。
対して後者のその他勢は、仕方なしに回復してるってところかな。
お母さんの語末に進むにつれて失速する語り方からしてそうだろうな。
「――連れてきましたよ」
と、率先してコクリコが怪我人をここまで誘導してくれる。
自分のハイポーションを使わなくてすむならということからの協力ってのが見え見えなんだよな……。
「ご足労コクリコ。皆さん足を運んでくださり感謝します」
村に入った時の会釈とは違い、深々と頭を下げてから自己紹介をすれば、皆して俺を敬うように膝をつこうとするので、直ぐさまやめさせる。
わざわざ集まってきてくれた怪我人に膝なんてつかせたくないからな。
「で、どうするんです」
「こうするんです」
「へんてこアイテムですね」
「カルロ――」
「素晴らしきアイテムですね!」
俺のプレイギアをへんてこアイテムなんて言うヤツは、無限軌道の悪夢を再び堪能してもらうよ。
「それで何を出すんじゃ?」
「まあ見てろよギムロン」
プレイギアを前へと突き出してから――、
「出てこい回復バッグ」
「なんじゃそりゃ」
ギムロンからは呆れ声。
もっと凄い物が出てくると期待してたんだろうな。
ミズーリやら戦車とかと比べると名前負けしてるから、しょっぱい召喚だと思うだろうけど――、
「試してみたいんだよ。失敗したら申し訳ない」
上手くいかないならハイポーションを振る舞わせてもらうから、どのみち集まってもらった皆さんには損はない。
怪我で集まった方々はサルタナ君のお母さんを入れて七人。
その七人の中心に小さな輝きが発生し、現れるのは医療品である事を意味する十字マークの入った迷彩色によるボストンバッグ。
日本サーバーにぶち込んでやりたいダメダメ蘇生のセラとコンバットフィールドをプレイしていた時から、もしかしたら使えるんじゃないかとは考えていた。
もっと早く気付けと自分でも思うが、いかんせん回復系はこの世界だと有能なのが多いからね。
俺の場合、回復魔法に精通したのがパーティー内にいるから、この発想に至るまでに遅れが生じたのが最たる理由。と、心の中で逃げ口上。
「で、これでどうするんですかトール? まさかバッグを開けて自分で治療しろとでも?」
「ならワシがやってやるぞ」
「まあ見てろよ二人とも」
――……。
「トール。なんですかこの時間は? 佇んでないで早く治療をして上げてください」
――頃合いだな。
「皆さん。よろしければ痛めた部分を動かしてもらってもいいですか? ゆっくりと動かしてみてください」
伝えると俺が勇者だということもあってか、疑うなんてこともなく、恐る恐るだけど動かしてくれる。
「んっ! んん!?」
肩を怪我した方が真っ先に声を上げる。
そして、その腕をブンブンと振り回す。
「ない!? 痛みがない!」
大声でそう発せば、その他の方々も嬉々とした声を上げる。
サルタナ君の母親もその場でピョンピョンと跳ねて痛みがない事を確認。
「成功だな。やったぜ!」
「おお! 勇者様!」
「直ぐに跪こうとしないでください」
こんなにも上手くいくとはね。
しかも複数を同時に回復。最高じゃねえか。
コンバットフィールドの回復バッグの素晴らしさを実感できた。
看護兵のガジェットとして使用できる回復バッグ。
能力はバッグ周囲にいる味方への回復。
この世界では敵対していない者ならば、回復バッグの恩恵があるというのが分かった。
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