PHASE-1616【トーシローばかりよく揃えたもんだ】

「いや~アップの胆力には恐れ入るよ。こんなカスと一時とは

いえ、会話をしていたんだからな。大したもんだよ。慈愛の女神様だね」


「テメエを殺したのはブリオレ・ムズガンだ!」

 大テーブルをひっくり返す。

 俺へと勢いよくテーブルが向かってくるところに、


「有り難う」


「いえいえ」

 ジージーの裏拳により大テーブルの軌道が逸れる。

 逸れた方向では、俺達にこれから訪れる悲惨な運命にニタニタと笑っていた連中がいたが、顔が瞬時に引きつったものへと変わり、へっぴり腰からの緊急回避による尻餅。

 動きの一つ一つから駄目駄目さが伝わってくる連中だよ。


「やるじゃねえかデカ頭。ガキもお守りがついてるから強気なことを言えるわけだ」


「側にいてくれて頼りになるのは事実だけども、お前程度なら誰だって強気で対応できる」


「死ね!」

 短い言葉から繰り出されるのは、図体に任せただけの大振りの拳。

 こちらの間合いに入って振り上げる拳とか――、


「ただの素人じゃねえか」

 一歩で懐に入り込み、コイツがベルに行っていた行為に対して溜めに溜め込んだ嫉妬を原動力とし、右手で拳を作ってからの、


隠忍自重からの解放の拳打フライアウェイ!」


「なんだそりゃ……」

 俺の技名に呆れつつも、ガリオンの視線は上を向く。

 そして弧を描くように視線を追い、ズズン! と音が一つ。

 大の字で仰臥の姿勢となったブリオレ。

 白目を剥いてピクリとも動かない。

 俺が見舞ったのはただのジャンピングアッパー。

 ストリートなファイターのメインキャラの技をイメージしての一撃だった。

 突き上げる拳は見事にブリオレのアゴに直撃。

 膝から崩れ落ちるのではなく、巨体を舞わせてからの現在。


「ピリアは?」


「ピリア無し」


「やるな」

 と、ガリオン。

 この程度、今の俺ならマナを使用しなくても余裕で吹っ飛ばせるだけの地力があるってもんよ。

 初歩であるインクリーズを使用して今の一撃を見舞えば、下手したら命を奪っていたかもしれない。

 そこまで考慮して手心を加えないといけないくらいに、


「弱い!」

 心の声が思いっきり漏れる。


「そらそうだろう」

 と、ガリオン。

 なんたって中心都市にギルドを構えているような連中なんだから、大したことないのが当たり前。

 本気で活動するなら、危険な場所に近い所に拠点を構えるってもんだ。

 もちろん、ここがゴールドポンドの数あるギルドハウスの中の本部と仮定すれば安全地帯に配置しているのも分かるが、受付嬢の発言が本当なら、面倒事はしないってのがこのギルド。

 で、上澄みであるブリオレがこの程度。

 コイツ等は実戦もろくに経験していない、ただ数に任せて護衛をこなしているだけの連中。

 

 しかも治安が向上している街道を利用して王都などと商売をしているとなれば、王都で励む新米冒険者よりも遙かに安全な仕事をこなしているだけのトーシロー連中とガリオンは続けた。


「へ~」


「なんだ? 顔に似合わずちゃんと考えているとでも言いたいのか」


「分かってるじゃないか」


「これでも外交担当だからな。正直、頭の出来はお前よりはいいと思うぞ――オルト」


「いまぶっ飛ばしたのもそうだったけど、お宅も言うね~」


「事実だと思うがな。それで、これからどうするんだ? ここにいるのは力の推量が無能な連中ばかりだぞ」

 最強格というブリオレをワンパンで吹っ飛ばしたものの、ガリオンが言うように俺達をここから出さないとばかりに、出入り口付近に立ち塞がる。

 こういう時の動きは素早いね。


「ここには用が無いのでこれでお暇しますよ」

 にっこり笑顔で言うも、


「ふざけんなよガキが!」

 モブから暴言が返ってくる。

 この状況下に笑顔を向ければ相手を挑発しているようなもんだな。と、ガリオン。

 そういった意図も含んでたけどね。


「なんだこの状況は!?」


「まだいるんじゃないか」

 一階での騒ぎに何事か!? と、階段を下ってくるのが十二。

 目の前の連中は増援のお陰で気が大きくなっている。

 絶対に逃がさない!

 ――特にベルへと向けられる視線。

 極上の女。女は絶対にこちら側に引き込んでやるという思いが目から伝わってくる。


「気持ちの悪い感情が蔓延してるね」

 呆れ口調のミルモン。

 数が増えてギャアギャアと更に五月蠅くなる。

 なんか既視感あると思ったけど、アレだ。


「カクエンの連中に似てるな」


「ああ、確かにそうだね」

 この面子では俺とミルモンだけが目にしたエルウルドの森の亜人。

 女に目がない連中。

 立ち塞がる連中はカクエンと同じ目だった。

 実力も同じくらいなんだろうけどね。

 いや、連中より眼前のは下だな。


「なのでサクサクと折檻して帰ろうか」


「余裕ある発言だな」


「実際、余裕だろ。ガリオン一人でも問題ない。こっちに挑んできそうなのは二十一。揃いも揃って構えが雑ときている。ただの案山子だ。ガリオンなら瞬きしている間に床に転がしているだろうさ」


「まあな」

 立ち塞がりこちらに大声で怒気を飛ばしてくる中でも、俺達の小馬鹿にした会話はよく聞こえたようで、


「くたばれ!」

 の一言と共に、ナイフが一本飛んでくる。


「とろくせえ。そんなんじゃ藁塚にも突き刺さらねえよ」

 顔へと目がけて飛んできたソレをガリオンはむんずと握る。

 力強く握ればキンッと音が一つギルドハウス内に響く。

 握力にものを言わせて曲げるのではなく、握り折るという芸当に場が静まり返る。

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