PHASE-336【コイツ、干し肉ばっかじゃんよ】

「しかし、人が多い」


「お金が使えるようなったからね。喜びで財布の紐も緩んでるだろうから、我々も勝負をかけるよ」

 何とも嬉しそうな旅商人さん。

 活気があって売り上げもよければ最高だろう。

 なので、帰りは是非、ギルド・雷帝の戦槌にて冒険者を雇い、護衛に付けてくださいと営業も行う。

 俺、ちゃんと考えてる。と、やはり自画自賛。


 金の流通でここまで賑わうとは予想外だった。

 金のやり取りで悪いことも増えるかもしれないから、その辺の監視もしっかりとしていかないとな。

 王兵の警邏と共に、ギルドメンバーにも頑張ってもらおう。

 でもって皆が頑張れるように、まずは俺が頑張らないといけないわけだ。

 

 若干レアな林檎のドライフルーツの食感を楽しみながら、活気ある大通りを進んで行く――――。


「これもください」


「はいよ」

 目的地に向かっていく中で聞いた声が、嬉々とした声音で屋台にて買い物をしている。


「何を無駄遣いをしてんだ?」


「トールじゃないですか」

 ご機嫌なコクリコは、麻袋を両手で抱えて持っている。


「うわ~……」

 覗き見れば――、いや、覗き見なくても袋から飛び出しているのは、


「干し肉か?」

 継いでから問えば、


「ええ!」

 と、まあ喜んでいる。

 確かに干し肉とは言え、肉は肉だからな。

 グレートボアという大型の猪から出来た干し肉だそうだ。

 魚だけでなく、肉も出回ってきたか。

 

 どれどれと、値札を見る。

 ――……ぬぅ……、高いな……。一切れがダーナ銀貨一枚。日本円で千円。

 一切れ千円か……。おいおいコクリコさんよ~。この王都では、王侯貴族も質素倹約に勤めているのに、こんなにも大量に買い込む意味があるのかね?

 こいつ、散財するタイプだな。

 ダーナ雫型金貨を三枚出している。日本円に換算すれば福沢先生が三人。

 干し肉に三万。ゲーム機が買えるんですけど……。

 馬鹿だ……。分かってはいるが、コクリコは馬鹿だ……。


「お前ね。無駄遣いはよくないぞ」


「何を言いますか!」

 おっと、熱を帯びた声が返ってきた。

 保存食である干し肉は、そのまま食べても良いし、お湯に入れれば即席のスープもできる優れもの。

 冒険者として旅の最中にモチベーションを保ち続ける為には、食を貧しくしてはいけないとの事。

 辛い旅路だからこそ、食にだけでも幸せを見出さなければならないのです。だ、そうです。

 

 ただ食い意地が張っているだけの言い訳でもあるだろうが、含蓄深くもあるので反論できない俺。

 そもそもが自分の報酬で買っているのだから何も言われたくないそうだ。

 まあ、いいけど。金がなくなっても俺は貸さないからな。

 貸したとしても、頭めがけて金属バットをフルスイング出来る闇金君なみの十日で五割トゴで貸してやろう。


「トールはこれから何処に?」


「いよいよなんだよ」

 ポンポンと左腰を叩いて暗に伝える。


「ようやくですか」


「いや。まだ時間はかかるみたいだけど、今日中には完成のようだ」

 では私もと、大きな麻袋を抱えながら俺の後についてくる。

 俺はコイツにはさんざっぱら痛い目に遭わされたが、男でありジェントルマンなので、持ってやると優しさを見せれば、素っ気なく結構ですと返ってきた……。

 どうやら俺が干し肉を奪うと考えたらしい。

 庇うように麻袋を俺から見えないようにしている。

 ハハ――、相変わらず人の神経を逆撫でるのが上手い奴だ。

 

 十日で五割トゴで貸してやると思っていたが、困った時に泣いて縋ってきても絶対に貸さない。

 哄笑だけをくれてやる。


 ――――ギルドハウスから出て大通りを北の方へと向かっていく。

 修練場を横目にしつつしばらく進むと、赤煉瓦からなる建物が見えてきた。

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