PHASE-337【工廠】
修練場近辺では主にトンテンカンテンと、木材と金属の音が聞こえてきたが、赤煉瓦の建物近辺からは、キーン、キンッと金属音メインの小気味のいい音が聞こえてくる。
中にはキュイーンと、回転ノコギリを彷彿させる音も耳朶に届いてくる。
とても活気が良い。
「馬鹿野郎!」
べらんめえ口調にも似た職人気質と一発で分かってしまうような怒号も飛んでくる。
炉から煙が上がり、ギルドの鍛冶屋とは規模の違う工場が姿を見せる。
「コクリコ・シュレンテッドです」
赤煉瓦の前にも酒蔵同様にゲートがあって、立哨が目を光らせている。
それに対してコクリコが名乗りつつ、自身の認識票を見せる。
認識票を見た立哨の兵士は、途端に怪訝な表情に変わった。
コクリコの存在は知っているだろうが、認識票に向けられた視線は鋭い。
「な、なんでしょう……」
鋭さにコクリコの声が不安に染まる。
「いや、この認識票は本物でしょうか?」
「本物ですよ! 勇者トールのパーティーメンバーであるこの天才魔道師でありロードウィザードの存在は知っているでしょう!」
コクリコの剣幕に押され気味の兵士。
初めて王都に来た時は、人の多さに緊張して引き籠もり生活をしていたのに、逞しくなったもんだ。
俺が隣にいるから問題なくゲートを通れると思っているようだが、俺としてはコクリコに怪訝な目を向ける立哨の兵士を褒めたい。
変に彫金部分を金文字にするからこうなるんだよ。
差別化をしたら偽物と判断されるとはね。何とも滑稽じゃないか。
「あの、勇者様」
「うん。偽物です」
「おいぃぃぃぃぃぃぃぃい!」
とまあ、コクリコとの馬鹿げたコントを終了して、間違いなく俺のパーティーメンバーとちゃんと伝えれば通してもらえた。
もちろん天才魔道師の部分は聞き流していいと伝えてあげる俺は、細やかな気配りが出来ると男だと、
なぜかコクリコに蹴られたが、今となっては俺の方が強いので、大したダメージはない。
若干、痛かったけど……。
「――――おお!」
中へとお邪魔すれば、如何にもといったタンクトップ姿の集団。
頭に手ぬぐいを巻いた、色黒で筋骨隆々な方々が金槌を叩き、焼けた金属から火の粉が飛んでいる光景が眼界に入ってくる。
ギルドの鍛冶場とは違う。あそこはメンバーや野良の方々が持ってきた装備を修復したり、小規模の生産をするだけ。
対してこっちは、大規模の大量生産と、ワンオフ装備を作り出す工場。
先生の適材適所による人員配置で、戦火に晒されながらも短期間で見事に復活。
俺たちが外で頑張っている間に、ドワーフなんかの職人がここで頑張ってくれることで、この【遠坂工廠】が蘇ったわけだ。
工廠というのはゲッコーさんが名付け親。
別段、近代兵器を生産するわけじゃないから、鍛冶場でもよかったと思うけど、たまに見せてくる中二病が工廠と名付けたくなったようだ。
まあ、俺もそこには即賛成してたけどね。
でもって、俺の苗字を工廠の頭につけるっていう、自惚れ。
先生が命名した要塞名では、自分大好きだと思われるのは嫌とか思っておきながらの、この工廠のネーミングセンスよ。
ちなみにギムロンは、ここでも責任者の一人として活動してくれている。
ギルドの鍛冶場に、カウンターの道具屋。酒蔵に工廠。
多岐にわたって活躍するギムロンの階級は一段階上げないといけないよな。
ここは俺が気にしなくても、先生ならこの辺は抜かりはないだろうが。
「街の中はどうでしたか?」
工廠内は騒がしい。必然的に抜かりはないと思われるイケメンさんの声も大きくなるというもの。
俺たちよりも先に来ていた先生。
他にもゲッコーさんもいればシャルナもいる。
そしてベルは一点を凝視している……。
俺のパーティーメンバーが揃っている。つまりは俺の装備が完成するからこその集合だ。
貨幣の流通で活気があったと先生に伝えれば、満足そうに笑みを見せてくれた。
先生が選抜した有能な人材達は、この工廠だけでなく、財政運営に配属された者たちも力を発揮してくれている。
――――ここより先は
でも、今回の俺たちには関係のない場所。
いても邪魔になるだけだから、ここでラメラーアーマーのワンオフがくみ上げられる工程を見学――――じゃなかった。
ついつい近くの職人さんの魅せる技巧に注視する。
鎧と鎧をワイヤーのような頑丈な紐でつなぎ合わせていく手作業の素晴らしさに魅入ってしまい、当初の目的を高速で忘れるところだった。
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