PHASE-335【流通開始】

「帰ったのか」


「……なんとも嬉しそうで……」

 有能だがいま現在、俺の目の前にいるのはポンコツモードなのだろうか……。

 

 野郎達に代わってクエストを多数こなしたわけだが、それから解放された帝国の中佐殿は、ゴロ太を抱っこして、周囲に子コボルト達を伴わせてなんともご満悦。

 ギルドハウスより出て、これからちびっ子達と食材を求めて街商に買い物だそうだ。

 

 一階で食べればいいと告げようと思ったが止めた。

 ベルもそれが分かっているんだろう。

 ベルがいると、野郎達のトラウマが発動するようだ……。

 

 それに昨日は相手が出来なかったからと、自ら料理を作って、ちびっ子達に振る舞いたいとのこと。

 ここにいるちびっ子達に加えて、自身の麾下としたコボルト達にも振る舞うらしい。

 羨ましい事で……。俺も麾下に入れてくれないかな。

 会頭なのにこの意識の低さである。


「物々交換も近いうちに終わるからな」


「そうか。ならばお金に換えてもらわないとな」

 理解が早くて助かりますよ……。

 会話が少なくてすむからな。

 俺としてはもっと話したいんだけど……。

 モフモフ達が本当に羨ましいぜ。




 一日が経過。各所の動きが活発になっている。


 ――――二日後に貨幣へと戻るということで、王都では造幣局が準備から可動に移行。

 流通後も造幣局は夜通しの作業がしばらくは続くようだ。


 戦火にさらされた中でも、住民の大半は家屋の床下にお金を埋めていて、生活が出来るほどには所持しているそうで、利用再開に際しては、大きな混乱は生まれないと先生は予想。


 対して旅商人にはやや混乱が見られた。

 今までが物々交換だったものだから、貨幣を所持していない商人もいたそうで、役人達はその対応に時間を割いたそうだ。

 解決策として、王都滞在中に持っている素材などを、王都の各店舗や俺のギルドにて、金で買い取るという事で応対するそうで、先生を中心に王都商人たちが旅商人達をフォローする事になる。

 声明と高札で伝えることで混乱はすぐに沈静化し、商人としてようやく金での取引が出来るという喜びへと、思考は即、切り替えられたそうだ。

 適応力の高さが商魂の図太さだな。


「ようやく文明が一つ進んだな」

 まあ、この世界の人々からすれば戻ったという発言が正しいのだろうが、俺が転生してきた時には、そんな事は皆無だったからな。

 進んだという表現になってしまう。

 独白だけども――――。





「これください」


「はい、ダーナ銅貨一枚ね」

 貨幣の流通が始まって一週間が経過。

 言葉というのは本当に伝播が速いようで、王都には今までにないくらいの街商が軒を連ね、各店舗は常に鈴生り。

 この一週間。西門付近は毎日がお祭りのような賑わいだ。


 北、南、西も同様に活気溢れる光景だそうだ。

 ちょっと前までは暗さが残った世界だったが、活気があるとそれだけで人々の表情はとても明るく、何より楽しくてしかたないようだ。


 何が楽しいのかは分からないままに、周囲の大人達のテンションが高いから、自分も楽しい。というのが王都に住む子供たちだ。

 大人たち以上に笑っている。何が楽しいのかは理解していないが、笑っている。

 

 そんな光景を目にしつつ、俺は街商から、この世界で初めての経験となる、お金を使用した買い物を実行。

 購入したのはドライフルーツ。

 形状からして林檎だ。

 

 購入してなんだが――、


「これってなんです?」

 街商のおっちゃんに聞けば、ミコロスと返ってくる。

 どうやら林檎の品種らしい。

 ふじとかジョナみたいなもんだな。

 

 このミコロスという品種の林檎は、生だと渋みが強くて食べるのには適さないらしいが、乾燥させれば甘みと栄養価が高い保存食になるそうだ。

 干して甘くなるって干し柿みたいだな。


 作るのに手間がかかるわりには、ダーナ銅貨一枚だから安い。日本円にして百円くらいだ。


 もっと値段をとってもいいような気もするが、大量生産でも可能なのかな? 結構な量が陳列されてるし、奥の馬車にも積んである。

 大量生産が可能なら、王都でも生産させたいね。

 食べやすくて保存も出来て栄養価も高い。

 有事に際して役に立ちそうだ。

 

 俺、ちゃんと今後の事を考えている。と、自画自賛。

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