PHASE-524【これには乗りたくない……】

「しかし、あれがスライムだったとは話を聞いても信じられないな」

 禍々しいという姿は、自分たち四大聖龍リゾーマタドラゴンに似ていたそうで、まるで闇を支配する龍のようだったと地龍は言う。


「ま、スライムだからね。姿形を変える事なんてお手の物なんだろうさ」


「だがスライムとはな……」

 コクリコにシャルナもそうだったけど、聖龍ですらスライムを低く見ているよな。

 敗因はそこだろう。

 俺のようにラノベ知識があれば、スライムだって馬鹿に出来ないだろうけど。

 まあ、相手がスライムと思って戦ったわけでもないだろうし。

 雑魚にカテゴライズされるスライムと知ればショックはやはり大きいようだな。

 先ほどの猛反発言もだったけど、深く落ち込むあたり、やはり生真面目な性格のようだな。

 豪放磊落な火龍とは性格が反対みたいだ。


「さて、ここでの目標も達成したことだし、逃げようぜ」


「凱旋の間違いだろう」


「いやいやベルさん。ここは敵中だから。目標を達成した時点で俺たちの勝ち。でもそれは試合に勝って勝負には――ってやつ。戦略的撤退が後の勝利に繋がるわけだよ」


「まともな事を言うじゃないか」


「でしょ」

 ゲッコーさんから褒められた。


「私ならこのまま連戦して、ついでに魔王を倒してもいいのだけどな」

 ベルが良くても、俺たちの体がついていかねえよ……。

 現状の俺を見てよ……。

 ――……三角座りだよ。

 フロートの効果も切れて、足も尻も水に浸かりまくりだよ。

 パンツの中までびしょびしょだぜ。パンツが尻に張り付いていくるあの気持ちの悪い感覚を魔法でどうにかしてほしいね。

 まったく地底湖みたいにしやがって!

 ――……俺がしたんだけども…………。

 

「では、乗るがいい」

 動けないのに乗れとか。

 そもそも鞍はないの? 地龍の背中ってトゲが生えているから、座ると痛そうなんだけど……。

 支配されてた時にも八つ当たりで言ってたけど、鬣にチェンジして。


「ほら」


「――おう!」

 足腰弱いけども、もの凄い脱力感に襲われているけども、手を差し伸べてくれるのがベルなら、無理してでも立たねばなるまいよ。

 ここでわざと転んでロケットおっぱいにダイブというのも考えたけども、本当に体が言うことを聞かないくらいにだるいから、自分の体を上手くコントロール出来ないのでやりたくても出来ない。

 補助に入ってくれるベルとランシェルに運ばれるというのが、今回のご褒美ということで。

 ――――ランシェルはご褒美ではないけども。この部分をご褒美と思ってはいけないから! と、自分に強く言い聞かせる。


「さあ、乗るがいい」


「あの、土とかをコントロール出来るなら、鞍とか製作できないですかね。痛いんだよね」


「おお、そうか! そうであるな」

 出来るんだな。

 ちょっと待っててくれと言えば、背中に集まる土が鞍を象っていく。

 土は直ぐに高質化し、岩石のような強度になっているというのが見ただけで分かる。

 ――…………見ただけで分かるんだけども、それ以上にね……。


「どうだろうか。勇者が乗るに相応しいだろう」


「いやはやこれは……」

 ゲッコーさんがポカンと口を開いて呆れておられる。

 俺を支えてくれるベルとランシェルの動きもしっかりと止まる。

 うれしいよ二人とも。コレには乗せたくないと思ってくれたんだな。


「なんと素敵な! トールが羨ましいですよ。正に覇者の風格」

 ほら、感性が人の斜め上をいくコクリコだけがテンション高いよ。

 シャルナとリズベッドは苦笑いだし。


「私の角をイメージして作ってみた」

 作ってみたじゃねえよ……。

 

 俺の眼界が最終的に捉える地龍の背中に出来たのは、鞍ではなく――椅子。

 最初は鞍かと思っていたが、次第に座る部分が隆起していって、椅子の姿になったわけだが……。

 デザインがいただけない。

 地龍の体と比べても、大きすぎてバランスがすこぶる悪い椅子。

 どうやっているのか知らないが、土で作られた椅子は金ピカに輝く使用だ。

 神々しい輝きなどは皆無。けばけばしさが主張する下品な輝き。

 背もたれ部分の左右からは、角をイメージしたと言うだけあって、天に向かって湾曲したソレが何本も生えているという、悪趣味なデザインだった……。

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