PHASE-476【東京ドーム約五個分】

――――下生えを踏みしだき、木々の切れ目を抜ければ、それは直ぐに眼界へと入ってきた。

 オーストラリアにある地球のへそと呼称される一枚岩、エアーズロックのような無骨な岩肌からなる要塞。

 エアーズロックと違うのは一枚岩ではなく、岩を成形したブロックを積み上げて造り上げられた人工物だ。


「あれがラッテンバウル要塞」


「そうです」

 ランシェルが相槌を打つ。


「大事業だな」


「ゴーレムを多数使用したそうです」


「便利だなゴーレム」

 俺たちの移動は休憩をはさんだが、予定よりも早く到着。

 夕陽はまだまだしっかりと大地を照らしてくれる。

 赫々と輝く要塞は、敵なんて攻めてこないと想定しているかのような自信の塊。

 要塞であるのに、城壁も無ければ、堀すらない。

 ただ巨大な岩の造形が、ずっしりとした重さを見る者に伝えてくるだけだ。


「こちらから見た位置を間口とすれば、五百メートルはあるな。奥行も同様くらいとすると、かなりの大きさだ」

 レンジファインダーつきの双眼鏡で大きさを分析するゲッコーさん。


「ざっと、東京ドーム五個分ですね」

 と、俺が返答。


「そうなのか?」


「多分ですが」

 地方民である俺は行った事はないけど、テレビで東京ドーム何個分とか聞かされてると、換算も自然と分かるようになるってもんだ。

 ――……もしかしたら俺だけかもしれないが……。


「ともあれ、大きさとしては十分だ。高さは五十メートルほど。地下も存在すると仮定すると、広いな」


「ですね」

 要塞としての大きさは十分に驚異なのだが……。


「要塞然としない要塞ですね」


「強者の余裕というものだな」

 ゲッコーさんの言は正しいだろう。

 強者の余裕。

 そう例えるしかない。

 城壁も堀も無く、ドンッと、一枚岩の如き要塞が見て取れるってのがその証拠だ。

 魔大陸まで人類が来るなんて想定していないのだろう。だから攻められるなんて考えを持ち合わせていない。

 もしくは、反抗勢力が攻めてきたとしても、取るに足らない些末な問題と認識しているのかもしれない。

 城壁も堀も存在しない要塞。

 クレトスで、高順氏を中心としたギルドメンバーに任せている要塞づくりとは真逆のものだ。


「本日を以て、強者の余裕ではなく、慢心と過信であるという現実を教えてやろう」

 夕陽によって不気味な赤銅色に照らされる要塞に向かって、腕組みをしつつベルが述べる。

 強調されるお胸様を凝視したいところだが、不気味な要塞に意識は集中してしまう。


「ラッテンバウル要塞。別名、レッドアイ」


「別名を聞かされると喉が渇いてくるな」


「はい?」

 ランシェルが発した別名にゲッコーさんがのっかる。

 確かビールとトマトジュースを混ぜたカクテルだったかな?

 余裕ある発言は頼もしい。

 レッドアイ――。夕陽によって赫々と輝く要塞の姿を目にして、誰かがそう名付けたんだろうと推測。

 それも有るそうだが、もう一つあるそうだ。

 赤い目を宿したレッドキャップスが在駐しているからってことらしい。

 こっちの謂われが本元だろう。


「どうなさいますか? 今から攻めますか?」

 メイド服にそう言われても緊張感がないけども。


「見通す目を持っているとしても、隠密性が高くなる夜の方が発見されにくいだろうから、予定通り暗くなってからだな」

 わざわざ夕陽に照らされながら要塞まで接近するなんてありえない。まあ、映画なんかだと栄えるシーンだけども。

 それに要塞までの道のりは、平坦でなにも障害物が無いから視認されやすい。

 裏を返せば、攻城兵器なんて投入されたら守ることも出来ない要塞なのだが。

 本当にこの要塞は、自信の塊が具現化したような造りだ――――。



「行きますか」

 日が落ちて、代わりに闇が天空を支配する時間帯。

 先ほどまで赤銅色だった要塞は黒色へと変わる。

 見た目としては今の方が重厚感が増していた。

 瘴気の濃い紫も相まって、不気味さに拍車をかける。


「ゴーレムとか出ないよな?」


「分かりません」

 建設にゴーレムが使用されているということは、防衛にも使用されている可能性があるからな。

 俺が思うに、単純な攻撃力だけなら、レッドキャップスのやつらよりあるだろうな。

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