PHASE-477【赤い輝き】
ここからはゲッコーさんの指示に従う。
遮蔽物も無い平地から要塞までの距離を進む姿勢は、中腰状態でのもの。
本来は匍匐がいいだろうとのことだったが、闇夜を見渡す目を持ち、瞬時にして目の前まで移動してくると言われるレッドキャップスに見つかり襲われれば、匍匐だと立ち上がるまでに隙が生じてしまうから、今回の移動方法では却下。
でもって一塊で行動すれば目立つからと、俯瞰から見れば、矢印を描くようにしつつ、一人一人が二十メートルくらい離れてから要塞を目指す。
一列目は夜目が利くゲッコーさん。
二列目右翼は、同様に夜目が利くシャルナ。
ビジョンを発動させている俺が二列目左翼。
三列目右翼にランシェル。
俺の斜め後ろの左翼にベル。
四列目の中央にコクリコという布陣。
大きな声も出せないので、お久しぶりのイヤホンマイクを耳に装着。
やはりというべきか、初めて装着するランシェルは、耳から俺たちの声が聞こえる事と、会話が出来る事に驚いていた。
イヤホンマイクは装着しても、今回は暗視装置の使用はない。
レッドキャップスが瞬間移動をするという事を事前に知らされていたから、突発的な至近戦に備えて、ゲッコーさんは暗視ゴーグルは煩わしいと選択したようで、夜目だけで対応するようだ。
俺とシャルナは問題ないし、ランシェルは夢魔であるインキュバス。そもそもが夜に行動する存在ということで、シャルナ並みに夜目が利くそうだ。
ベルは感知タイプだから、夜目が利かなくても問題ない。
コクリコはガスマスクを使用しているから、暗視ゴーグルの併用が難しいことと、ウィザードであることから、一番危険が少ないであろう最後尾というポジションになっている。
――――現在、中腰の状態で目標である要塞まで、後三百メートルといったところ。
近づけば近づくほどに要塞の圧倒的な大きさに驚きを禁じえない。
暗闇の中をゆっくりと着実に、音を立てないで進んでいく。
カチャカチャという金属が擦れる音すらも発せずに慎重に目標へと接近。
中腰移動というきつい移動方法だが、この異世界にて鍛えられた俺の体は悲鳴なんてあげないし、息切れもない。
今ならドラゴンフラッグを連続百回は出来るんじゃないだろうか。
――――百回は吹かしすぎだな。
『待て』
更に進んで要塞との距離が二百メートルほどになったところで、ベルから停止の指示。
「どうした?」
先頭のゲッコーさんも動きを止めて銃を宙空から取り出す。
いつものアサルトライフルであるMASADAとちがい、サプレッサー組み込みのスターリング・サブマシンガンだ。
取り回しが良くて、連射と消音、マズルフラッシュ抑制の物を選択したといったところ。
これはいよいよかと、俺も覚悟して要塞を見やる。
発動したビジョンでズームをイメージすれば、要塞外周付近で、キラキラと赤い輝きを捕捉。
赤い星々のような輝きは、濃い紫色の瘴気と闇夜に溶け込むことはなく、はっきりと見える。
「あれがコトネさんの言っていたものだとするなら……」
『気を付けてください!』
小声ながらも芯のあるランシェルの声が耳朶にダイレクトに届くと、続けざまに、
『来る!』
いつになくベルの声に緊張が混じる。
声がそうなる理由は、次の瞬間に理解する。
要塞付近で煌めく赤い輝きは軌跡を残す。まるで車やバイクがテールランプで描くような軌跡。
「人間じゃないか」
しっかりとした人語に続いて、激しい金属音が一つ響く。
ベルに向かっての一撃を見舞ったのは小柄な存在。
「おん!?」
あのベルが一歩下がった。
小柄な存在が突然と空中に現れる。
小柄な存在の手斧がベルを襲い、それをレイピアで防ぐ動作までが一瞬での出来事だった。
「ほう、よく防いだ。我が得物を防ぐその剣。相当の業物だな。褒めてやる」
着地して、手斧をポンと担って発せば、
「なんと重い一撃だ。脇の締まったよい一撃だ。褒めてやる」
赤く光る瞳と、エメラルドグリーンからなる瞳が交差すれば、ベルは見下しながら語末をオウム返し。
要塞まで後二百メートルほどあるというのに、本当に一瞬でここまできた。
転移魔法の使い手なのか。それとも軌跡を残す事から、目にも留まらない歩法なのだろうか。
分かることは、やばい能力であるという事だ。
ベルの返しがなんとも生意気と感じ取ったのか、小柄な存在が口角を上げる。
不敵な笑みなどで上げたのではなく、不快感から歯を軋らせた結果のものだ。
でもって、小柄な存在ってのはゴブリンだった。
つや消しでもしているような刃をもつ手斧に、上半身から膝までを覆うチェインメイルは、不思議な事に動いても金属が擦れる音がしない。
輝く赤い目とは違い、とんがり帽子はどす黒さが混じる赤。
「普通に喋るんだな」
ベルへと攻撃をしかけたゴブリンに問えば、しっかりと俺を見て、
「教養は受けている。ギャギャ、キィキィだけでやり取りをする存在ではない」
丁寧に返してくるが、向けられる目は危険そのもの。
赤く輝きながらも、瞳には虹彩がない。
病んでるヤツの目だ。
ただひたすらに相手を狩るというのに傾倒した存在だというのが、瞳を見るだけで理解できた。
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