PHASE-818【湿布温感タイプ】

「なにが後で怒られるだ! 訳の分からねえことを言ってんじゃねえ! テメーに後なんてねえんだよ!」


「分からなくていいよ。別にお前にとって意味のないことだし。やられるお前にとってはな」

 すげなく、そして馬鹿にして言ったもんだからご立腹。

 手斧とバックラーの組み合わせの傭兵は怒気を纏い全速力で接近。俺の頭にめがけて手斧を振り下ろす。

 なんとも眠くなる攻撃だ。

 振り下ろされる手首を掴んで捻って投げる。

 受け身も取れずに全速力の勢いのまま背中から叩き付けられれば、


「ぎょん!?」

 中々におかしな声を上げ、泡を吹いてダウン。

 別段、お前らなんかに驚異を感じないからな。

 後で孤立したことを怒られるんじゃないかって方が、俺にとっては重要事項なんだよ。


「このやろう!」

 要塞の中に作られた庭園って感じの場所が現在、俺が立つ場所。

 この寒い中でも鮮やかな深緑の植物が育っているのは魔道具なんかが作用しているのだろうか。

 金持ちの道楽でもあるけど、美化した彫刻や調度品と違って、兵達の休憩場ってのにはもってこいの憩いの場ではある。

 今はむさい連中しかいないけどね。


「おりゃ!」

 このやろう! って言ってたヤツは大剣持ち。

 どういった感じで振るのかと思ったけど、上段から力任せに振り下ろすという至って普通の攻撃。

 しかも完全に武器のチョイスを誤っており、振り下ろしというより振り回されていた。

 初太刀を躱せばなんの脅威もない。

 隙だらけの顎に籠手による裏拳一撃。

 これで終わる。

 武具は身の丈に合った物を選ばないとな。格好だけ優先するからお前等は弱いんだよ。


「もっと攻めろ取り囲むんだ」

 指示を出したところで言うことを聞こうとはしない様子。どうやら立場的には同ランクのようで、「指図するな」と罵声で返し、それに対して罵声で返す。

 そんな姿に嘲笑を向ければ、当然お怒り。

 でも足並みは揃わない。自分に合わせろと言い合うだけ。有りがたいくらいに隙だらけなので、仲良く顎先に拳を叩き込んでやる。


「顎先一発でダウンっていう共通点が出来てよかったね」

 今後はそれを話の種にして仲良くなってね。


「くそが!」や「なめやがって!」といった悪態。

 悪態はつくけども、俺との距離を縮めようとはしない残った連中。

 やはりというか、ボッチ一人でもどうにかなるくらいにコイツ等は弱い。

 俺がチート主人公になったのかな? という錯覚を起こすくらいに弱い。

 白戦で十分なんだよね。


「ラピッド!」

 背後からのその声に対して俺はジャンプ。

 先ほどまで立っていた位置で影が通り過ぎる。

 その影がどういった動きをしているのかというのも、現状の動体視力なら容易に窺い知ることが可能。


「お前は珍妙団の――――なんだったっけ?」


「四人衆。疾風のマイネスだ!」


「そうそれ。湿布のマイネン」


「マイネンじゃない! 疾風のマイネスだ!! なめやがって、よくもカリオネル様の前で恥を掻かせてくれたな!」


「それはお宅の実力不足が原因だろう。自分の現在に満足して胡座をかいてしまったからでしょ。限界超えようぜ。そしたら次の限界が見えてくるから」


「うるせえ!」


「大言壮語にならないように実力はしっかりとつけないとな」


「黙れ!」

 うるせえだ黙れと、同じ意味の単語でしか返せないのかな? 結構いいことを言ってると思うんだけどな。

 アホらしいので肩を竦めると、当然ながら大激怒で顔真っ赤。

 湿布のマイネンは直ぐに顔が真っ赤になるから、のびのび湿布は温感タイプだな。


「ラピッド!」


「ほい」

 馬鹿みたいに一つ覚えのピリアで、これまた馬鹿みたいに直線でしか来ないから回避は簡単。


「今回は反撃できなかったようだな。躱すので精一杯。前回のまぐれによる一撃はないと思え!」

 ――……そのメンタルが羨ましい。

 もしくは鈍感力。

 ギヤマンハートの俺には是非にも欲しい力だよ。

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