PHASE-479【精鋭だろうが、うちの二人には関係ない】
「「ぬん」」
オーガとトロールのダブルによる攻撃。
地面をなぎ払うような一撃を俺の左右から見舞ってくる。
オーガは巨大な鉈。闇堕ちサンタみたいなトロールは、柄が六、七メートルはある、体よりも長いハルバート。
最初の難敵だったホブゴブリンのバロニアのハルバートが普通に見えてくる。
「でも――さ!」
ラピッドによる俊敏性を上げた跳躍で、回避してからの残火による一太刀。
横一文字の一太刀が、オーガの胸元に入る。
浅いけども、自慢の鎖帷子状のものを斬ってやる。
「ぬぅ……モーザ・ドゥーグの毛で編まれた帷子を容易く斬るとは」
傷口から流れる血からして、浅くはあってもダメージは十分。
――な、はずなんだけど、表情は痛みに歪むというより、帷子を斬られた事への驚きのものだった。
「気を付けろ。流石は勇者だぞ。俺の得物もなまくらにかえられた」
と、鎌を振るったインプが警告を告げる。
「ならば!」
勇者ではなく、従者を狙う選択をしたサハギンが、近場に立つゲッコーさんへと狙いを定め、右手に持った手斧と、左手では逆手に持ったナイフを構えて迫る。
「悪手だな」
たとえ強かろうが、お前等より強い存在はいるって事を認識して召されるがいいさ。
シュパパ、シュパパ――と、指を切っての射撃。
軽快な音と共に、スターリングが吐き出す弾丸によって、サハギンが前のめりで倒れる。
流れ出る血の位置からして、ヘッドショットが決まったようだ。
「何なんだ? クロスボウの魔道武器なのか!? こんな代物を使うのか」
見たこと無い物には、如何に精鋭の存在であっても驚きは隠せない。
「チィ!」
今度は俺から鎌を奪われたインプが一瞬で姿を消し、ゲッコーさんの背後から姿を現す。
腰に佩いていたダガーを抜き、
「死ね!」
の、一言を発した後に、ゲッコーさんによって命を奪われる。
背後に回っての一撃は容易く受け流され、ダガーを振った力を利用されつつ、ゲッコーさんの膂力も加味された投げで、顔面から地面へと叩き付けられる。
ゴシャリという鈍い音。
インプの頭が見るも無惨なものになった。形容するならスイカが高いところから落ちたような状態。
頭は潰れても、体と鉤状の尻尾は、今も尚ピクピクと痙攣している。
「後ろから狙う時は声を発するな。何のために後ろを取っているんだ。アマチュアか、お前は」
絶命しているインプに言っても意味はないだろうが、周囲のレッドキャップス達は、強者の存在に警戒を強める。
「ならば正面からだ!」
トロールのハルバートが大上段から振り下ろされる。
先ほどのオーガ以上の一撃になるだろう。
膂力とポールウェポンの遠心力が生み出す一撃を体で防ぐとなれば、ただでは済まない。
「か!?」
――――まあ、当たればの話なんだけど。
ベルの一閃。
復活した炎を纏ったレイピアの一閃は、トロールをハルバートごと容易く燃やす。
燃やすというか、灰燼。
一瞬にして四、五メートルを超える存在が、骨も残さず消え去る光景は戦慄である。
この状況には流石のレッドキャップス達も思考が追っつかなかったのか、あっけにとられて、声を出せずに動きが止まっていた。
「ふむ」
斬って何かを感じるベルは、
「トール。この者達、存外、容易い」
まあ本人たちを前にして、ズバッと言い切りますね。
二人が強いだけって返答したいけど――。
言い得て妙でもあるからな。
俺もオーガに対して一撃を見舞えた事から察するに、強いとは言っても、一人一人がボスクラスって訳ではない。
ゲーム内なら序盤のボスクラスではあるだろうが、現状の俺たちなら、チート二人がいなくても戦える――と思う。
「容易い理由が分かるか?」
チート中佐は、相対する存在たちを相手にもしないように俺に問いかける。
「まあ少しは」
コトネさんから話に聞いていた、一瞬で距離を詰めてくるってので、驚異の想像を膨らませすぎていた。
たしかに、瞬間移動が出来るのは凄いが、その後の攻撃速度は普通なんだよね。
背後に回り込んでの一撃は、普通の接近攻撃でしかない。
それさえ分かれば何とか対応は出来ると答えると、ベルは満足そうに凛としつつも、柔和な表情を向けてくれる。
ゲッコーさんも頷いてくれる。
「なめるなよ!」
レッドキャップスを置き去りにして話し込んでいたが、思考が追っついたのか、最初に仕掛けてきたゴブリンが、お怒りモードで動く。
高く跳躍すれば、右手に持った手斧を向けることなく、左手を俺たちへと向ける。
動作に連動して、周囲にいた残りのレッドキャップスが瞬時に後退すれば、ゴブリンの左手前方に火球が顕現。
「バーストフレア」
ゼノも使った中位魔法だな。こういうのも普通に使えるのは素直に凄いと思える。
中位魔法を普通に使える集団だとするなら、間違いなくレッドキャップスは強敵。
十にも満たない戦力であったとしても、普通の町レベルなら苦も無く占領できる実力者たちだろう。
普通よりちょいと強い存在を相手にするなら、常勝は間違いない精鋭部隊だ。
だけども――――、
「プロテクション」
ここで満を持してのシャルナの防御魔法。
タチアナが一方向に魔法障壁を作り出すなら、ハイエルフのシャルナのプロテクションは、ドーム状の魔法障壁で全包囲を守ってくれる。
しかもタチアナのと違って、分厚い障壁だ。
バーストフレアなど脅威でもないとばかりに防いでくれる。
ここにいる俺のパーティーは、普通よりちょいと強い存在とは訳が違う。
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