PHASE-480【血を欲す】
「シッ」
プロテクションからの、矢を番え、流れるように放たれる一矢は、いまだ地面に足の着いていないゴブリンの頭部に見事に命中。
ビジョンによりしっかりと目にした一矢。眼窩を貫いて、後頭部から鏃が飛び出ていた。
「目が赤く輝くのも問題ね。こっちからしたら狙いやすい的だもん」
と、強者の発言だ。
強いのは知っていたけど、魔王護衛軍の精鋭とされる存在をこうも簡単に倒すとは、流石はハイエルフだ。
「強いぞ。こいつらは最良の血だ」
なんて言ってるオーガの傷口がボコボコと泡立っていると思ったら、あっという間に傷が治っていた。
以前に戦ったトロールと同じ自己再生なり回復を有しているようだ。
「残ったのはデカいのと、ちっこいのですね」
満を持して口だけ参戦のコクリコ。
言うように残ったのは、オーガと二体目のゴブリン。
もっと苛烈に多くで攻めてくると思ったけど、中々に援軍が来ないことから察するに、こいつらは偵察要員のようだ。
もしくは、こいつらだけで片が付くと、要塞側は考えているのかもしれないな。
強者故の驕った考えかな?
「尻尾を巻いて逃げますか」
更に強気に発言するコクリコ。
対してオーガとゴブリンが哄笑で返す。
「我々に撤退などない。有るのは敵の殲滅か、自らの死よ」
抑揚のないオーガの発言は、まるで機械のように言わされているだけのようなものだった。
そういう考えがしっかりと根付くまで、洗脳に近い指導が施されているのかも知れないな。
「さあ、強者よ! その血をよこせぇ! 血ぃぃぃぃが欲しいぃぃぃぃぃ」
猛り狂い、裏返った声でゴブリンがベルへと迫る。
強者の血を欲するという行為はよく分からんが、あのゴブリンが命を散らすってのはよく分かる。
半狂乱のようなゴブリンとは真逆に、声も発さずベルがレイピアを下段から斬り上げれば、斬られた方は灰燼となり、声と共に、存在そのものがかき消された。
「この中ではあの女か!」
瞬時に姿を消すオーガ。
「ラピッド」
発動はしているが、気概を示すといった感じで口に出し、ベルの背後へと一足飛び。
俺を信用しているのか、ベルは全く動こうとしない。
予想通り、ベルの背後に姿を現し、巨大な鉈を振り上げていたオーガに対し。
「せいっ」
横一文字。
両足を断ち切り、崩れ落ちる体から、首部分に狙いを定めて残火を上段より振るう。
――――オーガの首が宙を舞う。
「馬鹿な!?」
なんとも在り来たりな常套句を残したオーガの顔は、驚きに歪んでいた。
人間のものより二回りほどある頭部が地面に落ちれば、ドスンと重量のある音が響く。
残火を構える姿勢は未だ戦闘体勢。
トロール以上の再生能力だったり、治癒能力なんかがあるなら、斬った体から頭が生えるなり、首から下が再生するって事もありえる。
…………。
わずかな静寂の後、
「ランシェル」
魔王軍に詳しい者に問えば、問題ないとの事で、息吹からの残心。
肩を弛緩させて、残火の刀身に目を向け、付着した鮮血を血振りしてから鞘に収める。
「敵、六。こちらに損害なく仕留められたな」
スターリングのマガジンを交換しつつ、要塞を見やるゲッコーさん。
偵察に出た六人で片が付くとやはり思っているのか、次が出てこない。
パッシブでビジョンのような能力を持っているなら、この戦闘を見ていただろうに。
「こりゃ鬱陶しいな」
「何がです。ゲッコーさん?」
問えば、俺たちの力量を理解した上で、ここでは攻めることをせず、ホームである要塞内で仕掛けてくる可能性が高いと推測。
死地に踏み込ませてから、仕留める腹積もりということだそうだ。
「さあ、行きましょう!」
この戦いでまったく役に立たなかったコクリコが、次こそはとばかりの気概で発する。
暴走しないで、ウィザードとしての立ち回りをお願いしたいもんだな。
要塞内に入ったら、前衛に立たず、後衛で頑張ってほしい。
「さて、もうばれているし、堂々と行きましょうか」
中腰移動なんてもはや無意味だと提案すれば、それもそうだなと、ゲッコーさんは煙草に火をつけ、紫煙を楽しむ。
こちらは既に捕捉されている訳だから、散開した状態で攻撃を受けるのは悪手なので、一塊となって、相手に余裕を見せつけるように悠々と要塞を目指す。
手本にするのはベルだ。
肩で風を切るような堂々とした歩きっぷりは格好いい。
足が長いからこそ見栄えもいい。
俺のように胴が長いと、あそこまで格好良く闊歩できない。
出来るだけ大股で歩く事を心がける。
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