PHASE-743【ああ…………プークス】
「……は、はなせ愚か者。今なら不問にしてやるぞ……」
「あんたほど愚者ではないつもりだが」
「ひぃ!」
ゲッコーさんの冷酷な声をダイレクトに耳に届けられると精神状態は常時、恐怖状態になってしまうことだろう。
気を失わないだけまだ気骨があると称賛するべきか。ただ鈍感なだけなのか。
「チッ! ああ」
若干の苛立ちを表す舌打ちと、呆れ口調で馬鹿息子の拘束を解くゲッコーさん。
「カリオネル様!」
と、四人衆の内の一人が駆け寄ろうとするが、
「……ああ……」
ピタリと止まり、
「ああ……」
同音だが、力なく腰砕けになる馬鹿息子の声は、姿同様に力のない声。
生気が抜けきったかのようだった。
ゲッコーさんが拘束を解いたのと、四人衆がピタリと止まった理由は、馬鹿息子直下の床が原因。
「ハハハハハハ! 四十も過ぎて漏らしおったぞ」
馬鹿息子を中心として放射状に広がっていく水たまり。
伯爵はその様がおもしろおかしくて仕方ないようだ。
「それ、し~来い来い。し~来い来い。ハハハハハ――――」
と、腹を抱えて追撃で馬鹿にする始末。
侯爵も顔を伏せているけど、肩を震わせていることから笑いを堪えているんだろう。
ランシェルとマイヤは壁際まで高速移動。
おっさんの粗相から少しでも離れたいという乙女心だろう。
一人は乙女ではないけども。
「う……くぅ……」
悔しさと恥ずかしさから顔は真っ赤だ。
悔しい声も確かにしているが、それをかき消すような伯爵の笑い声は更にボリュームが上がる。
「こ、殺せ! この狼藉者どもを今すぐ捕らえて処刑しろ! 首は塩漬けにして王の元へと返してやれ!」
「それが言えるのはお前じゃない」
カチャリとお久しぶりのハンドガン・CZ75 SP-01が馬鹿息子の後頭部に当てられる。
見たことがない形状だろうけど、形からして小型のクロスボウ的な物と判断した傭兵たちは更に動けなくなる。
「いぃ、いいきゃげんにひろよ!」
「滑舌も悪いし、声が裏返っているぞ。俺としてはここで話は終わらせて帰りたいんだけどな」
冷ややかな声を背中からゲッコーさんがぶつければ、馬鹿息子は白目をむいて今にも倒れそう。
今後の事も考えてここできっちりと命を奪えばよろしい。と、ゲッコーさんに述べる伯爵だけど、物事には段取りもあると却下。
それを聞いて自分は生かされる可能性が出てきたと知れば、何とか交渉しようと、背後に素早く回り込んだことを称賛しつつ、言い値でもいいから自分の所に来ないかと誘ってくる。
もし来るなら最高幹部として自分の側に置くとまで言う始末。
「俺としてはお前がこれ以上のモノを漏らす前に、お前から離れたいんだがな」
と、馬鹿にする。
これには伯爵がまた大笑いで続いた。
前だけでなく後ろまで漏らしてしまえば、後世の歴史家たちはこぞって面白おかしく書いてくれるだろう。
どんな形であれ歴史に名を残せるのはいい事だ。と、笑いを吹き出しながら発せば、悔しそうに馬鹿息子は本日最高の真っ赤っか。
「中止だ! 会談など! 後悔させてやるぞ!」
「端から話になどなっていなかったわ!」
くだらん! と、テーブルを蹴れば、伯爵はお前たちこそ覚悟をしておけと、蹴りを入れたテーブルにオリハルコンの鉄鞭を振り下ろし、容易く長テーブルをたたき折る。
木っ端が舞う中でヒョイと侯爵が鳥の丸焼きを大皿ごと手に取る。
食べ物は無駄に出来ないからね。大分減ったとはいえ、女性五人がかりで運んで来た丸焼きを一人で軽々と持つところは武闘派として流石だ。
ま、他の食べ物は犠牲になったけども……。
ベルがこの場にいたなら、食べ物を粗末にするな! って、バリタン伯爵は説教されていただろうな。
「ではこれを土産にしてお暇しましょう」
と、侯爵が述べ、俺へと顔を向ける。
場を締めろって事なんだろうね。
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