PHASE-742【入れ墨には意味があった模様】
だとしても――だ。
「ラピッドだったんだろうけど……」
俺が普段使用しているピリアであるラピッドに比べれば遅い。
習得もして多用しているし、縮地やアクセルなんかをこの目にしているからそう感じてしまうのかな?
現在ストレンクスンは使用していない。
地力倍加であるピリアどころか、タフネスもインクリーズも使用してない素の状態だった。
でも見切れた。
素の動体視力もこれまでの戦いを経て成長しているようだ。
というか、こいつがただ弱かっただけかな?
壁にくっつくように全身をビタンと貼り付け、力なくズルズルと崩れ落ちる。
まさか軽めの裏拳一発で――ね~。
「信じられん……マイネスの動きを見切っていたのか」
「俺でも苦労するというのに」
あ、コイツら本当に大したことないようだ。
この程度で四人衆とか名の付くやり手ポジションとなると、俺のギルドの面子ならまったく問題ないな。
もちろん新米さん達にはキツいだろうけど、俺の横に並んで構えてくれるマイヤやランシェルだと容易い相手だ。
「とはいえ、マイネスは速さだけが取り柄の男。俺たちならば問題ない」
完全にやられ役の台詞じゃねえか……。
やるぞと構える残りの三人が腕まくり。
ガントレットに守られた前腕部分より上の腕にさっきから見える入れ墨。
蛇が魔法陣を描いているようなデザイン。
三人と倒れた疾風の何チャラに共通したタトゥーは、貴族の会談の場には相応しくない。
「共通しているようだから、あいつ等の組織のものなのかな?」
「違います」
と、ランシェル。
マジックカーブというものらしい。
低位から中位魔法を使用可能な魔彫りと呼ばれる魔導術式だそうで、消耗するスクロールなんかと違って、消耗無しに魔法が行使できるそうだ。
欠点は一日に使用出来る回数が制限されていること。
その使用回数も一回から三回と少ないということ。
低位と中位程度が使用限界であり、上位以上を封じるのは難しいという。
だとしても、相手方にはそういった魔導術式を施すことが可能な人材がいるわけだから、今後、出会うであろう驚異として考えなければならないと口にすれば、スクロールに魔法を封じる事に比べれば術式を施すのは簡単だそうで、別段そこまで珍しいものでもない。と、ランシェルが説明を続けてくれる。
珍しいものではないらしいが、俺は初見。
魔法を使用出来る者たちが当たり前のようにいるから、マジックカーブを体に彫るという事を選択肢に入れていない方々が周囲には多かったのでしょう。と、推測するランシェル。
魔彫りのデザインは同じ物ばかりだから、自分の個性を出したがる冒険者には受けが悪いというのも原因の一つだとマイヤが補足。
とはいえ低位と中位でも実力ある術者が使えば馬鹿にならないのも事実。
リンのような低位であっても上位レベルの魔法威力になるような存在もいるからな。
マジックカーブという魔彫り。その術式を施す者。今後、警戒はしといて損はない。
今後――ね。現状では問題ないと見ていい。
なんたって俺の軽めの裏拳でワンパンのようなヤツと一緒になって四人衆だからな。
取るに足らないというのは、現在の状況で分かりきっている。
まったく、何も見えていないね~。
「行くぞ」
今度は三人で攻めるとばかりに、腰に佩いた剣。背中に背負ったウォーハンマー。
一人がマジックカーブを使用するのか俺の方に手を向けてくる。
「いやいや……」
肩を竦めてしまう。
「強者のつもりか勇者よ!」
「その強者がお前等の後ろにいるぜ」
「なに!?」
なんで俺にだけ集中するかね……。
傭兵なんだよね? 立ち回りが素人じゃねえか。
見てみろよ。少なくと征北騎士団のミランドは構えてたけど直ぐさま諸手を挙げて降参のポーズだよ。
俺の発言をブラフと思いつつも、恐る恐る肩越しに後ろを見れば――、
「卑怯な!」
と、俺が罵声を浴びせられる。
気付けないお前等も大概だろう。
さっきまで俺の背後にいたのに、その人がいなくなった事に気付かないんだからな。
「流石はゲッコー殿である」
傭兵たちと違って、伯爵はかかと笑いながら上機嫌。
「いっそのことそのままその首をへし折ってやりなされ」
確かに、残酷ではあるけどそれで戦いが回避できるなら安いもんだろうな。
「た、たすけ……て」
う~ん。THE小者だな。
馬鹿息子は本当に絵に描いたような小者だ。
絶賛ゲッコーさんに拘束されている状態の馬鹿息子は、軽く首を絞められている程度だから口は開けるけども、後ちょっと締め上げれば簡単に落ちるだろう。
その塩梅を理解している達人の絞め技に馬鹿息子は恐怖しているようだ。
「お待ち頂きたい。ここでカリオネル様の命を奪う事になるならば、我々、征北騎士団は全力を挙げて報復に出ます」
「どのみち我々と戦うつもりであろうが!」
「それは分かりませんが、ここから無事にお帰りになることは出来ますまい」
「たわけが! 余裕だ。だからこそこの人数で来ておるのだ!」
「世迷い言を!」
相手方の要塞から七人でどうやって切り抜けようというのか。
とても馬鹿げた話であると、ミランドは呆れ口調にて伯爵へと返していた。
実際、帰れるんだけども。
そもそも本来は十人だし。
残りの三人は今ごろこの要塞で色々と探ったり準備をしているだろうからね。
その準備の一片を使用するだけでも、余裕でここから帰ることが出来るだろうね。
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