PHASE-744【各自で命名しとるな……】

「では我々はこれで。出来れば案内を」

 と、俺が別れの挨拶を簡素に行い、帰りの案内をミランドに頼めば、馬鹿息子を見つつ、首肯で返してくれる。

 自分の主の惨めさをこれ以上見たくないと思ったんだろうな。

 皆して部屋を出る時には、強気になった馬鹿息子からの罵詈雑言を別れの挨拶として背中で受け止める。

 ロイドルはどうしようかと右往左往しつつ、結果、俺たちと一緒に部屋を出ると、


「私はこれにて」

 侯爵と伯爵からの圧も受けたくないだろうからか、素早い一礼と共に俺たちを残して一目散に通路を駆けて去っていく。

 扉の番兵をする騎士団は何事かと俺たちを警戒するも、


「どけい!」

 伯爵の恫喝で道が出来た。

 焦らなくともお前たちとは戦うことになろうだろう。主がああなのだからな。

 と、継いで吐き捨て、横を歩く侯爵は余裕綽々に丸焼きの乗った大皿を伯爵に持たせると、ナイフを取り出して細かく切り分け、普段の紳士然とした姿とはかけ離れた、戦士のように豪快に大口を開いてがぶりと一口。


「ようやく鳥のうま味がしっかりと堪能できた」

 馬鹿息子の顔を見ながら食せば、美味もまずいものに変わるからという毒づきのおまけ付き。

 然りと、伯爵も大きく切り分けられた部分つまんで豪快に一口。

 その間、大皿を片手で持っている膂力は大したもの。

 余裕の二人の後を俺たちは背後を気にしつつ進み――要塞の門を潜ろうとしたところで。


「止まれ!」

 黒い毛皮のマントの集団が俺たちの前に立ちふさがる。


「ほう、傭兵団はへっぽこ四人衆だけではないのだな。まあ当然か」

 油の付いた指をねぶり、睨みを利かせる伯爵。


「これは騎士団にとっては屈辱だね」

 と、先頭で案内する征北騎士団団長補佐のミランドに同情する侯爵に、ミランドは空笑いだけで返してくる。

 やはりこの要塞の守護は馬鹿息子の取り巻きである傭兵団が中心となっているようだ。

 要塞内の騎士団は番兵。一般の兵士は傭兵たちの指示の元で動いているといったところか。

 しかし配置が下手だな。

 傭兵なんてやばくなったら逃げ出すだろうに。

 なんで領地にて忠誠を誓っている面子を大事にしないのか。

 馬鹿の考えは本当に分からない。


「どいてくれるかな」

 名代の護衛は俺たちだからね。

 代表として俺が先頭に立つ。


「余裕だな」


「背後をお願いしますよ」

 ゲッコーさんに返しつつ更に一歩。

 一歩前に出れば、傭兵団は一歩後ろに下がる。

 ベルのような強者になった気分だ。

 調子には乗らないけど、強気には出ようじゃないか。


「お宅達のとこの四人衆とかっての弱かったよ」


「なにを!」

 四人衆の一人をワンパン解決だったことを説明すれば、信じられないとも思ったようだが、曲がりなりにも戦いに身を置く者達として、俺の周囲にいる面子からの圧力は感じてくれたようで、俺の発言を信実として受け入れてくれる。

 俺の発言自体でそうなるように、もっと人間力を上げていかないとな。


「てことで――」

 もう一度、どいてくれる。と言いたかったが、


「臆するな!」

 裂帛ある声と共に防御壁の壁上より飛び降りてくる黒い影が三つ。

 もちろん装備は傭兵団のもの。

 壁上から飛び降りるだけの身体能力はあるようだな。


「四人衆の一人が容易く倒されたからといって、何を臆することがある!」


「そう――ここには!」


「我ら牙の三傑がいる!」

 ――……なるほど。そう来たか……。

 四人衆の次は三傑か……。

 となると、次は双璧か二枚看板かな?

 これは下手したら四天王やら、十二天将とかも出てきそうだな。

 というか、各自が勝手に名乗っている説!


「勇者よ。我らが牙からは逃げられん」

 この三人、常に練習しているのか、バッチリと台詞とポージングを合わせてくるね。


「あの……。見てるこっちが恥ずかしくなってくるんだよね……」

 俺やコクリコ。そしてゲッコーさんも大概病んではいるけども。

 ――……コイツ等のは総じてダサいんだよな。

 コイツ等、知ってか知らずか、精神世界アストラルサイドから上手い具合に攻めてくるよね。

 言動をとる度に、こっちが恥ずかしくなって体がむず痒くなってくる……。

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