PHASE-140【初めての共同作業です】

 ここは皆で一緒に。という思いを伝えるように、首を忙しなく動かして二人を見ていると――、


「早く行け!」


「い゛え゛ぁ!」

 ここにきて、一番こたえるダメージをベルからくらった……。

 

 普段はローキックなのに、腰にミドルですよ。

 ズンッっと来たね。

 外部よりも内蔵に衝撃が来る、プロの技だ……。


「ぐぅぅ……。やったらぁ!」

 時代劇なんかで目にする、柄に唾をぶっかけての両手持ち。

 火龍めがけて猛ダッシュ。

 

 眉間の高さを考えると、いくら伏せている状態でも、俺がそこに到達するまでには、時間がかかるってもんだ。


「まじで一狩いってる気分だよ。お供に愛らしい猫が欲しいところだね」

 バシャバシャと、臑部分まで水が溜まってるってのが凄い。

 この広間に、これほどの水たまりを作り出すとは。

 いや、もはや水たまりではなく、池だな。

 俺の魔法すごいな! と、自画自賛だ。


 でもって――、


「いい塩梅の足湯だ」

 火龍の体を冷ました水は快適なお湯に変わっていた。

 癒やしを感じながらも、お湯の中で走る速度は落ちない。


 この世界に来てから、足腰が随分と鍛えられたようだ。


 だが、鍛えられたとしても、そこはやはり常人。

 お湯に浸かる足で跳躍したところで、格好良く火龍に飛びつくことが出来ないのは分かっている。

 

 ――――なので、


「よいしょ」

 地道に鱗を掴んでから登っていくだけだ。

 

 有りがたい事に、水で鱗は冷やされているから、若干の熱は残っているが、掴むことは可能だ。

 硬い鱗も相まって、岩盤浴みたいな気持ちよさが腹に伝わってくる。


「ウォォォォォ――――」


「こわっ!」

 水圧でへばってはいるが、それでも唸って俺を威嚇してくる。

 

 暴れる前に急いで登る俺。

 一狩というか、巨像に登って弱点を突くをゲームやってるみたいだな。


「オォォォォォ」


「暴れるなよ! 暴れたら、また水ぶっかけるからな!」

 通じてんのか分からんが、必死になって登ってる最中に暴れるな! と、ずっと言い続ける俺。

 不思議と登る間、暴れないでいてくれた。


「――――ふぃ~」

 やっとこさ、眉間までたどり着く。

 

 楕円の黒いクリスタル。

 正確には透明なクリスタルの中で、黒い瘴気が蠢いていると言うべきだな。


 近くで見れば、楕円のクリスタルは、火龍に埋め込まれているってのがよく分かる。

 継ぎ目がないから、埋没している。

 埋め込まれているから、実際の形状は、楕円のクリスタルではないのかもしれないな。


「コイツを壊せばいいんだろ」

 今一度、唾を柄に付けてから、気合いを入れて搾るように握って、蜻蛉の構え――――。


「キェェェェェェ!」

 おおよそ勇者のかけ声ではないが、こんなもんは気持ちだからな。

 

 全身全霊でクリスタルに刀を叩き込む。

 

 ――……刀身から柄、それを握る俺の手から腕を伝って、体中に衝撃が走る。

 想像するなら、海外のギャグアニメなんかでよくある、体中がビリビリと痺れ上がる感じだ。


「いったい!」

 遅れて声が出る。

 

 これあれだ、刀じゃだめだ……。

 斧とかハンマー、鶴嘴なんかじゃないと壊せないや~つ。


「おっとっと」


「グゥゥゥゥ」

 やばいよ! 衝撃にお怒りなのか、今にも起き上がりそうな勢いですよ。


「全く手間がかかるな」

 言ってベルが俺に向けて炎を放つ。

 

 青い炎。熱さは感じない。敵意が無い証拠。

 

 炎が俺の刀に巻き付けば、漏斗状の渦を巻く。


「これは!? まるで終の秘剣のようじゃないか」

 轟々と炎が雄叫びを上げる。

 

 俺の刀を中心に、激しく荒ぶっている。

 青い炎だから、2Pキャラでの技という脳内設定。

 

 ベルと俺のコンビネーションアーツだ。

 

 二人による初めての共同作業です。と、司会進行の方の声が脳内で再生された。

 

 ヤーコプ・ルートヴィヒ・フェーリクス・メンデルスゾーン・バルトルディ。

 分かりやすく言うと、フェリックス・メンデルスゾーン作曲。

 夏の夜の夢に使用された付随音楽である、結婚行進曲が、パパパパーンと、流れ出す幸せ。


「なぜその様な場で惚けられる。さっさとやれ!」

 幸せトリップを堪能していれば、中佐の怒号によって、現実に戻されてしまった悲しみ……。

 足元の恐怖から、幸せ妄想に逃げたかったのに……。

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