PHASE-141【対話】
「よっしゃ! やってやる! 俺のは不発じゃないぞ!」
不発と聞いて、二人は何のことだと首を傾げていたが、どうでもいい。
弱肉強食をスローガンとしている包帯剣豪を憑依させるかのように、
「シャァァァァァァァァァ――!」
てなぐあいに、覇気ある声にて、唸りを上げる炎を纏わせた刀を両手で振り下ろす。
「ぎゃあああ゛」
継いで出たのは、衝撃に驚いた情けない声。
声の主はもちろん――――俺。
覇気ある声は、一瞬で虚空へと消え去った。
振り下ろしと同時に炎が集束し、弾け飛ぶ。
バックドラフトに似た爆発の衝撃で、俺自身も吹き飛んでしまった。
次には背中から落下する。
「ぐへ!」
息が出来ないかと思うくらいの衝撃だったが、若干だがお湯がクッションになってくれて、そこまで苦しまなくてすんだ。
「へへへ……」
なるほど、作中では不発だったが、ちゃんと発動するとこういう感じになるんだろうな。
などと、気になっていたものがファンタジーな世界で解決したことに、満足感も得てしまう。
――……得るものもあれば、失うのも世の中というもの。
「ああ……」
俺の刀が、終の秘剣もどきに耐えられなかった……。
刀身の三分の二が無くなってしまった。
さながらナイフである。
「まあ、いいとしよう!」
痛む背中を無理矢理にとばかりに、矢庭に立ち上がり、火龍の眉間付近を見やる。
瘴気の入ったクリスタルはどうなったのか?
「――――おお!」
クリスタルはヒビがはいったようで、そこから瘴気が漏れ出していた。
「でも、勢いがない」
終の秘剣もどきでも駄目か……。
「まかせろ」
と、ここで頼りになる渋い声。
手にしたバレットからバイポットを展開して、伏射にて確実に狙いを定める。
伝説の兵士が、安定した姿勢で撃つ。即ち外すという事はない。
ズドン!
続く音はビシリと亀裂の入る音。
クリスタルに入った小さなヒビは、バレットの一射によって、枝分かれするように広がり、ガシャンと音を発して砕け散る。
溜まっていた瘴気が一気に外へと排出。
「グゥゥゥゥゥゥ」
唸る火龍。
まだ油断は出来ない。
三人して身構えつつ接近。
ベルは流石にしんどいようで、青い炎を消し、赤い髪と炎に戻っている。
ギョロリと縦長の黒目が、俺たちを捕捉すれば、
「ああ……。なんと清々しい」
喋る事には驚かない。
この世界の事象を司る存在なんだから、人語が喋れて当然とは思っていた。
「見ていたぞ。お前たちが我に挑むのを」
快活ある剛気な声だ。
「ああ、ええっと、まだやる?」
勝者を装うように、上から発言する俺。
神のような存在に不遜極まりないだろうが、神なら普段から蔑ろにしてるからな。
セラっていう死神を。
「なんとも図太いな。小僧」
「この者の場合は、無遠慮。世間知らずと言うのです」
おい、ベル。なんだよ急に恭しくなって。
そんな姿は俺にしなさいよ。
忘れているかもしれないけど、俺がお前を召喚したマスターだぞ。
俺自身も、最近その事を忘れ去っていたけど。
「この世界の根幹を維持する存在だ。御身の前では礼儀をもて」
ええっと、それは王様たちを見下していたお前が言う事かな?
「かまわん。それにしても傾国よ。素晴らしき炎を使う。人でありながら、我の詠唱からの大魔法を防ぐとは。赤く美しい髪と形貌。我の巫女となってもらいたいな」
豪快な笑いの中での、エロ社長のような発言。
ベルは笑みを顔に貼り付けると、「結構です」と、簡単に断る。
すると、これまた豪快な笑いが返ってきた。
陽気なおっさんだ。酔っ払っているかのようだ。
豪放磊落の四字熟語が似合うドラゴンである。
「おおっと、まずは礼を述べねばならんな。我を解放してくれて感謝する」
やはりと言うべきか、操られていただけか。
気性の荒い暴龍なんかが、世界の作り手なわけないからな。
「承知であろうが、魔王に瘴気のクリスタルを埋め込まれて、正気を失ってたわけだ。ガハハハ――――」
ああ……。根っからのおっさんだわ……。
しょうもない笑いだ。笑ってるのはあんただけだよ。火龍……。
火龍と言うより、氷龍なんじゃないかな? だって、寒いんだもん。ギャグ……。
異世界に来てまで聞かされる寒いおっさんギャグは、ゲッコーさんだけにしていただきたいね。
「ちなみに、今のは瘴気と正気を――――」
「分かってますから」
解説いらない。
なんか先生も瘴気と正気をネタにしてたな……。
異世界では流行してるのかな? そのネタ。
聞かされる方は、ベルどころか、たまに寒いギャグを口にするゲッコーさんまで半眼ですよ。
このままだと、ギャグの説明から始まるので、ぶった切ってやった。
しぶしぶだったが、ギャグの説明を省いて、火龍は自分が如何に戦って敗北し、封じられたかの経緯だけを語ってくれた――――。
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