PHASE-669【巨影】
音の反響から何処にいるかも分からないが、それをさらに難しくするこの濃霧。
寒さは気合いでカバーするとして、何も見通せない状況だから、どこから何が来るのかと不安に駆られる。
そう、普通の冒険者とかならね。
でも俺にはストレンクスンがある!
地力が倍加している状態だから――、
「問題なし!」
アルスン翁様々だ。
鞘より真鍮の剣身を抜ききり、ギンッっと切り払ったのは――氷の塊。
フリーズダートより大きめで、フリーズランサーよりは小型。
煉瓦ほどのサイズの鋭利な氷塊だった。
魔法なのか、それともミストドラゴン固有の能力による攻撃なのかは今のところ不明。
「話を聞いてもらいたい」
『うるさい!』
聞く耳持たないか。
怖いヤツとかうるさいとか、野太い声の割に子供っぽさがあるな。
「姿を見せてよ」
『――いいだろう。そして後悔しろ』
見せてはくれるんだな。
その間にも攻撃を仕掛けてくるようだけど。
同様の氷塊による攻撃が続く。
一方向からしか来ないことから、包囲攻撃の心配はないようだ。
これだけの濃霧だから、多方向からの攻撃をしかけられたらきつかったけども、今のところは対応できている。
というか、コクリコもリンも遅いな。
一気にこの地底湖まで引っ張られてきたからな。
ここまで来るのにはまだ時間がかかるかもな。
味方が来てくれるまでは、攻勢よりも守勢に重きを置くべきだろう。
「ん?」
すぅぅぅぅっと、俺の眼前の濃霧に影が発生する。
発言どおり姿をお披露目してくれるようだ。
うん。大きな影だ。
――……本当に大きな影だ……。
――…………いや、ちょっと。
「…………大きすぎ!」
『ハハハハ! 小さいな人間!』
濃霧から現れたのは、とてつもなくデカい真っ白な龍。
霧を纏っているから全体をちゃんと視認できないけど、白い鱗の巨龍だ。
火龍よりもデカい。
天井に頭が届きそうなほどだ。
尻尾までいれれば、五、六十メートルクラス。
「モビルアーマーじゃないんだから……」
巨体を活用した攻撃なんてされた日には、一撃でもくらえば間違いなく一発昇天。
火龍装備であったとしても結果は同じだろう。
圧倒的質量の前ではどんな装備でも無意味だからな……。
『どうだこの姿。怖いだろう! 怖がって、そして後悔しながら死んでいけ!』
なんか言い回しの所々に子供っぽさが見え隠れする。
コクリコと似た感じだ。
あいつのは重度の中二病だけど。中身は同じ感じだな。
似てはいても、姿は別次元だけど。
驚異だな。
霧を纏う巨龍が巨大な口を開く。
ブレスと判断して回避の体勢。
――をとろうとしたが、
「あ、そうなの」
予想とは違い、先ほどと同じ氷塊だった。
大きな口からすれば肩すかしもいいところな煉瓦サイズの鋭利なやつ。
もちろん当たり所が悪ければ致命傷だけども、巨体な姿から比べれば貧弱、脆弱。
「せいや!」
当然の如く切り払う。
オリハルコンのロングソードだと硬い氷塊も容易く切って落とせる。
『真鍮色の剣。オリハルコンか。勇者というのは本当のようだ』
「そうだよ。だから話し合いで解決しよう」
『勇者だからといって善とは限らない。それにお前は人間種。それだけで信用に値しない』
相当に嫌な思いをしてきたんだな。
ま、同胞が乱獲の対象になったわけだし、それを行ったのが冒険者。
恨みを感じる声音からして、その時代にミストドラゴンを狩っていた冒険者は人間が主だったようだな。
『死ね!』
なんとも怨嗟の籠もった声だ。
巨体の前足が上がれば、頭同様、天井まで届く勢い。
そこから全力の振り下ろし。
ミストドラゴンにとっては単純な動きだろうけど、170センチ台の身長である俺からしたら驚異でしかない。
頭の中で即座に思い浮かんだのは、高いところから落とした熟れたトマト。
地面で潰れて放射状に広がる赤い果肉。
回避に失敗したら、思い浮かんだ比喩表現のような形状になるわけだ。
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